ほ ぼ 四 半 世 紀
〜ようやく北斗星に乗る〜

ファースト利用でDPラウンジ利用可

寝台特急北斗星が運転を開始したのは1988年3月。その後ほぼ四半世紀の時が過ぎたが、不思議とこの列車に縁が無かった。運行当初はプラチナチケットと化した個室寝台に恐れをなし、近年は次々と廃止されていく九州特急ほかのお別れ乗車に忙しくて、まずまず安泰である北斗星まで乗れなかったという事情があった。この四半世紀のうちに北斗星にも栄枯盛衰の歴史があり、最大3往復の定期列車が運転されていたが、カシオペアの出現で1往復が臨時列車になり、2008年には1往復に減ってしまった。気がつけば「ブルートレイン」と呼べる寝台特急は、「あけぼの」と、この列車の2往復だけになっており、車両の老朽化を考えると、「乗れる時に乗らなければ…」と焦りを感じた。というわけで、ようやく北斗星に乗車することになった。

オール2人用(以上)A寝台のカシオペアも乗れないわけではないが、1人旅派にとっては敷居がめちゃくちゃ高い。だから上野〜札幌間を1往復しかしていない北斗星の1人用個室の競争率は必然的に高くなる。今回は海の日三連休絡みということで、通常よりもチケット確保の難易度が上がる。果たして1ヶ月前10時の発売開始には、A寝台個室ロイヤルはおろか、B寝台個室ソロも押さえることができなかった。しかし翌日の午後に奇跡的にソロに空席が出て(おそらく連休中の北海道の滞在日数が多くなる翌日出発のチケットを確保した人が手放したのだろう)、プラチナチケットを確保できた。これでようやく北斗星に乗れる…


整然としたダイヤモンドプレミアムラウンジ内部


ラウンジの喫煙所にて筆者。ここも高級仕様

北斗星のチケットがとれたのは三連休初日の札幌発。北海道での滞在時間を延ばしたいのなら、連休前日の最終便で北海道入りしておきたいところだったが、前日はお盆の初日。浜松では初盆のお宅を訪ねる「盆義理」という風習があり、夕刻に浜松を離れられない事情があった。結局、三連休初日の午前中に新千歳空港に飛ぶことになり、滞在6時間ちょっとの弾丸ツアーになってしまった…。

羽田→新千歳のJAL509便は、弾丸ツアーには不釣合いなファーストクラス。旅の日程を確定するのに遅くなってしまい、先得系のチケットは満席。それなら料金差の小さいファーストクラスを奢ってしまえということで、初体験の国内線ファーストクラスの利用となった。オマケで付いてくるダイヤモンドプレミアムラウンジも、もちろん初体験。ANAラウンジは全面禁煙化されつつあるが、こちらは上等な喫煙室が配置されていた。なんだか喫煙者に対する考え方が、JR東日本とJR東海のようで興味深かった。

羽田から新千歳までは、機内サービス可能な時間は1時間足らず。その中で本格的な機内食をサービスするのは、ファーストクラスの面目躍如。陶器の皿やカップ、金属製のナイフやフォーク、クリスタルガラス製のグラスでサーブされる機内食は、食事の内容はともあれ国際線のビジネスクラスっぽくて好感が持てた。ちなみにメニューは「洋定食」(パンプキンスープ、コーンフィリングホットサンド、夏野菜のラタトゥユ、ライプオリーブ、イタリアンパセリサラダ)、「フィンガーサンドイッチ」、「揚げなすのトマトソーススパゲティ」の3種類からの選択。私は洋定食を選んだ。

上等な席であるほど時間が短く感じるのが常で、あっという間に新千歳空港に着陸。後ろ髪を引かれる思いでファーストクラスを後にして、ここからはショートドライヴ。愛車プリウスと乗り比べをするべく、トヨタ・アクアをレンタルした。千歳〜道東道〜夕張〜ワインディング〜岩見沢〜道央道〜札幌と、150`ほど運転した印象を記すと、加速感はどっこいどっこい。燃費もほぼ同じ。取り回しやワインディングでの快適さは、ホイールベースが短い分、アクアの方が軽快だった。一方で、質感(特にインパネ、ダッシュボード周り)は、クラスが違うので当たり前だが、プリウスの方が数段上だった。総合的に考えると、50万円余分に払ってでもプリウスを買った方が満足できそうな感じである。

さて道東道を飛ばし、ドライヴの主たる目的地の夕張にやって来たが、どんよりとした曇り空もあいまって暗い雰囲気が漂っている。市役所周辺の目抜き通りを走ったが、ダミーの映画看板が逆にうらぶれた感を醸し出している。かつて夕張一の観光スポットだった「石炭の歴史村」にも立ち寄ったが、入場ゲート前の広大な駐車場はもぬけの殻。そのままゲートをくぐって進んでいくと、わずかに4〜5台のクルマが駐車しているだけだった。海の日3連休の北海道でこの有様。普段はどうなっているのか推して知るべしである。

なにか一刻も早くここを立ち去りたいムードだが、それでもと思い石炭博物館に行ってみた。入場料1,200円とあり、ちょっと高いなと思いつつ、「ここまで来たのだから」と券売所らしきところに行くと無人。こんなガラガラな状態では、黙って入場するわけにもいかず、結局何も見ずに退散。以上が今回の旅のメインである夕張での出来事である…。


革張りのゆったりとしたシートが並ぶファースト


陶器の皿、金属のナイフ。本格的な食器使用


曇り空の新千歳空港に到着したJAL509便


レンタルしたアクア。石炭の歴史村入口にて


石炭博物館にて筆者。結局入場せずに帰る


岩見沢公園近くの見事なポプラ並木


湯元岩見沢温泉なごみに寄る

夕張から岩見沢へ抜ける峠道は、かつて夕張炭田と万字炭鉱を結ぶ石炭ロードだった。つづれ折りで峠を抜け、畑とも原野ともつかぬ景色の中を突っ走っていくと、やがて右手に岩見沢公園が見えてくる。公園には寄らず、今夜に備えて日帰り温泉を浴びようと思い、インター近くの「湯元岩見沢温泉なごみ」に立ち寄った。大きな露天風呂があり、ゆっくりと旅の疲れを癒すことができた。


北斗星の食堂車「グランシャリオ」にて筆者


オードブルは帆立とサーモンのマリネ


撮るのを忘れ食べかけ状態


噴火湾に沈んでいく夕陽


朝のB個室ソロ室内にて筆者

温泉を出発すると、あとはクルマを返すだけになり、予定よりも1時間早く札幌駅前に到着。無傷のままクルマを返却して、ひとつ肩の荷が下りた。北斗星の入線まで札幌駅構内でだらだらと過ごし、17時過ぎにホームに上がったら、既に青い車体が横付けされていた。

17時12分に札幌駅を発車。狭苦しいB寝台個室ソロの部屋で、食堂車のオープンまで酒を飲んで時間つぶし。進行方向と逆向きのシートゆえ、車窓を楽しむまでに至らず不満が募った。そこへ食堂車オープンを知らせる車内放送が入った。喜び勇んで隣のグランシャリオに駆けて行った。18時から19時30分までの予約は、私を含め5組だけで、ちょっと拍子抜け。1人でテーブルに座った、私と同じような境遇の男性は、懐石御膳をオーダーしたらしく30分ほどでそそくさと食堂車を出て行った。それ以外の3組は、おそらくみんな夫婦連れ。いずれもフランス料理をオーダーしていた。弁当のような懐石御膳は5,500円。一方のフランス料理は7,800円。この値段差なら、断然フランス料理のコースを選ぶべきである。

さて、食堂車でこれだけゆっくりと食事をしたのは初体験。噴火湾に沈んでいく夕陽を眺めながら、私の半生の中でも1、2位を争う極上なトワイライトセクションを過ごすことができた。ワインのハーフボトルを2本空け、トータルで1万円以上になったが、そんなことは関係ないと思えるほどの、人生最高の「ひとりメシ」だった。北海道滞在わずか6時間の弾丸ツアーだったが、北斗星の食堂車でぐっと旅の満足度が上がった感じである。


メインは牛フィレソテー。この画像も危うかった


アイスクリームを食べかけてしまったデザート


夕暮れの海、極上のトワイライトセクション


トンネル通過時に夜の食堂車の雰囲気を撮影


1,000`以上を駆け抜けて北斗星が終着上野へ


東京→三島間は久々に東海道線を下った

<終>

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