のぞみはなくても、ひかりはある


私の数々の旅を彩ったひかり481号が入線

「九州特急」から始まり「あけぼの」「北斗星」「トワイライト」「カシオペア」…。年が明けると「葬式テツ」でなくとも気がそぞろになる。しかし今春のダイヤ改正が地味なので、今年はそれほどメディアに取り上げられることもなかろう。たとえそうだとしても、私にとっては今度のダイヤ改正に気になる列車改廃がある。それはひかり号からの700系撤退である。タバコが自席で吸える700系には、これまで数々の旅でお世話になっている。今や「旅情を感じる列車トップ5」にランクインしそうな勢いである。特に会社終わりに浜松から乗車できる「ひかり481号」は、「これから旅に出るぞ」という嬉しさもあり、その後に続く本番の旅よりも楽しい列車だった。今回の旅は「700系ひかり」の惜別に焦点を当てて記していく。

浜松駅6番ホーム。18時30分過ぎにいつものとおり岡山行のひかり481号が入線する。今回はグリーン車を奮発した。発車するとのぞみ号の如く突っ走る。浜松を出れば西明石まで後続ののぞみ号に抜かれないひかり号。線路脇に雪の残る関ケ原も遅れなしで乗り切り、京都、新大阪と停車して新神戸で後から来るのぞみ55号に乗り換えた。

のぞみ55号はN700系。新神戸〜岡山間は33分しかかからず、喫煙ルームには行く気がしない。岡山で向かいのホームに待つ、こだま763号に乗り継ぐ。こちらは山陽新幹線唯一の700系16両編成のこだま号である(小倉〜博多間を除く)。浜松から広島まで通しのグリーン券を持っているので、10号車の喫煙グリーン車に座ったが、当然のように他の乗客はいない。せっかくなので記念撮影をしたりして、やりたい放題に過ごした。なお、岡山〜広島間を走るこだま763号は、翌朝広島から発車する唯一の東京行きひかり号となる列車の送り込みのために走っているので、ひかりがN700系になればこちらもN700系になる。今回広島まで足を延ばしたのは、この列車でも「シートで喫煙」をしたいためでもあった。飲み放題でタバコも吸い放題。これも1か月後には思い出の彼方に消えていく。

広島市内で宿泊し、翌日は家に戻るだけ。いくら列車に乗ることを目的にしていても、往復1,200キロ以上移動するのにそれだけでは寂しい。というわけで久々に尾道に寄ることにした。三原までこだま自由席で移動し、三原〜尾道間は在来線。やっぱり尾道は鈍行で入るに限る。東からでも西からでも、尾道水道に沿って山陽線が走っているので、海を見ながら尾道に入ることができる。尾道ではこれまた久々の千光寺公園に行こうと思い、初乗車となる千光寺山ロープウェイで往復した。尾道市内のバスと、ロープウェイの往復券がセットになった「おのみちフリーパス」はたったの600円。千光寺公園には滞在10分だったが、尾道水道両岸の箱庭的な美しさは十分堪能できた。

さて、千光寺公園を10分で切り上げたのは尾道での2時間の滞在の間に、ぜひ尾道ラーメンを食べたかったからである。といっても尾道駅前の有名な店は昼食時には列ができ、短時間にぱっぱと食べられるものではない。そこで新尾道駅にバス移動し、駅から徒歩圏内にある味の蔵尾道店に入った。味の蔵は備後地区を中心とした博多ラーメンのチェーン店であるが、メニューには博多ラーメン、尾道ラーメン、札幌ラーメン、浜松餃子と「いったいここはどこ?」といった品書きが並んでいた。当然のように尾道ラーメンを選択したが、背脂が浮く醤油味の普通の尾道ラーメンでなぜかホッとした。

新尾道13時40分発のこだま740号で尾道を脱出。岡山で向かいのホームに待つひかり474号に乗り換えた。こだまが8両編成の700系ひかりレールスターなら、ひかりの方も16両編成の700系。帰りは定番の16号車普通車指定席で、2時間半あまりの旅路を楽しんだ。1999年の登場時には「新幹線車両の決定版」と言われた700系も幾歳月を過ごし、東海道区間ではあと3年のうちに引退ということになってしまった。その前段階で今年3月のダイヤ改正でひかり号の運用から離脱が決まり、この系列を愛してやまない私は少なからずショックを受けた。せめて引退までの3年間は700系編成を指名買いして、旅情を楽しんでいこうと思う。


乗客は私ひとりのグリーン車でやりたい放題


千光寺山ロープウェイは意外にも初乗車


たった2時間の尾道滞在でも十分元が取れる「おのみちフリーパス」


時間のある時にまた歩きたい「文学のこみち」


断崖にへばりつく千光寺


念願の尾道ラーメンを食す


尾道三部作以来、尾道水道両岸の箱庭的な美しさに魅せられてしまった


寺町の間を山陽線の115系末期色が過ぎていく


700系レールスターも今では脇役に徹する

<終>

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