〜 ゆ る 旅 〜 尾 道


静岡より371系で沼津へ


なにかと大変だった厄年の2007年。今年最後の旅は、とにかく「ゆる〜い旅」をしたかった。どこにも寄らずに、居心地のいい宿で明るいうちから酒を飲む。そんな旅がしたかった。というわけで90年代に足繁く通い、自分のお気に入りの街ベスト3に確実にランクインする尾道に久々に泊まる事にした。

浜松から尾道へは、新幹線で西へ向かえば3時間あまり。でも単純に新幹線で往復するのは自分の旅の哲学に似合わない。始発の遠鉄電車で出発し、なぜかこだまで静岡へ。日本で1編成しかない371系に久々に乗るためである。1991年に新宿と沼津を結ぶ特急「あさぎり」としてデビューした371系は、バブル絶頂期に設計された車輌だけあって、外観、内装ともに凝った造りとなっている。3次元曲線が美しい先頭車と展望席。編成中央部に2両連結した2階建て車輌。チャラチャラとしたステンレスやアルミ製でなく鋼鉄製の車体。現在のトレンドからはズレが生じているが、乗っみたい電車ランキングでは依然として上位に位置している。特急「あさぎり」の間合い運用で、ホームライナーとして浜松にも乗り入れ、デビュー当時はその塗り分けから「新幹線が在来線を走っている」と、鉄道に関心の無い層にも衝撃を与えたものである。その371系で在来線を沼津に向かった。

車窓から雄大な富士山を望む


ローアングルでホームが迫る階下席

沼津まではホームライナーとして運転されるため、310円の乗車整理券だけで乗車できる。普通車ながら2列+1列とゆったりした造りの階下席で40分の道のりを楽しんだ。雪をかぶった富士山が間近に迫り、中学1年の頃、初めて友人どうしで行った旅の事を思い出した。当時は清水港線が健在で、DD13が混合列車を引っ張り、清水と三保の間を一日一往復していた。冬休みに連れ立ってその清水港線に乗り、終点からほど近い三保の松原から見た富士山が綺麗だったことは、今でも忘れない。その時から30年近く経過したが、富士山はその時と変わらぬ美しさを保っていた。

沼津からは、さらに東へ向かう。231系の鈍行列車で川崎へ。750円追加でグリーン車に乗車。2時間の長丁場も快適に過ごすことができた。


普通車ながら横3列シートでゆったり


沼津停車中に特急「あさぎり」に変身


登場時は新幹線っぽいと話題に


沼津からは231系のグリーン車に乗車


広島空港から三原駅へは路線バスで移動

京急で羽田空港に移動し、ANA677便で広島空港へ。冬型の気圧配置のため、広島県内は風花が舞う寒い午後だった。三原駅行きの路線バスの乗客はわずか3人。バスの中も外も寒々しかった。

三原から尾道へはわずか2駅だが、久々に湘南色の115系に乗ることができて拾い物だった。アコモデーションもほとんど改造されておらず、対面の座席に足を投げ出して、昔ながらの列車の旅を楽しむことができた。唯一の途中駅である糸崎では、西部山陽線特有の「ピリピリピリ〜」という発車ベルの音が聞けた。大学生から社会人になった頃、よく青春18キップで鈍行を乗り回っていたが、その頃盛んに耳にした音である。「あの頃はいろんな悩み事を考えながら列車に乗っていたなぁ」とちょっと感傷的になったひとときだった。


広島地区では湘南色の115系が最後の活躍


尾道駅の勝手口・北口。住宅街に近い


静かな瀬戸内…尾道が近づく


尾道ビュウホテルから街並みを見下ろす


薄暮の尾道市街。ドックの灯りが美しい

尾道駅近くのスーパーで、ビールや惣菜をがっつり買い込み、山の上にある「尾道ビュウホテルセイザン」に向かう。地図上では大した距離ではないのに、いざ坂道を登ってみると息が切れた。25階建てのビルを重い荷物を背負って一気に階段を登ったくらいだと言えば分かりやすいだろうか。登りはじめて10分後、チェックインする時にあまりにも「ゼーゼーハーハー」やっている自分を見かねて、フロントのお姉さんが水を持ってきてくれたくらいである。

苦労して登ってきた甲斐もあって、ホテルの部屋からの眺めは最高だった。明るいうちから尾道の街を眺めながらビールを飲み始め、夜景に変わる頃には、すっかり酔っ払いになっていた。念願の「ゆる旅」を叶えることができた。

尾道の夜景。全室この眺めが楽しめる


朝焼けの尾道水道。もう渡船は動いている


酔っ払って早寝したため、翌朝は日の出前に目覚めた。窓の外は、刻々と色を変える朝焼けの尾道水道。そして朝日が部屋に差し込む。尾道に泊まった者だけが許される、移りゆく眺望に息を呑んだ。

7時過ぎにホテルをチェックアウト。往路は息も絶え絶えに登ってきた坂道は、朝の爽やかな空気とあいまって、快適な散歩道になっていた。尾道は坂を上り下りしてこそ、その良さが分かるのかもしれない。


尾道駅へと下る急な坂道


向島に朝日が昇る。尾道の一夜が終わる


尾道城と尾道ビュウホテルセイザン


尾道ドックをバックに「びんごライナー」が到着


高速バス「びんごライナー」〜吉備SAにて


高速道路がビルを貫く梅田


名古屋へは近鉄アーバンライナーで移動


プラス410円の余裕。デラックスシート

尾道駅前から大阪行き高速バス「びんごライナー」に乗車。運転席頭上の最前列に座って、前面展望を心ゆくまで楽しんだ。福山東インターから高速に入れば、大阪までは3時間の道のり。途中、吉備SAと三木SAで休憩するため、タバコの我慢もそれほど苦痛ではなかった。これで尾道〜大阪湊町の運賃は3870円。やはり高速バスは安い。

湊町バスターミナルと近鉄難波駅は隣どうしであるので、名古屋まで近鉄特急に乗車した。410円追加して、JRのグリーン車並みのデラックスシートに座ってみた。あまりの快適さにぐっすり眠ってしまい、楽しみのひとつである沿線の車窓が見られなかったのが、ちょっと心残りだった。
<終>

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