辞 本 涯 〜The End Of Japan〜


三連休初日は朝から雨。特急で甲府へ

東海道・山陽新幹線の会員制ネット予約システム「エクスプレス予約」にはグリーンプログラムという制度がある。これはネット予約するたびにポイントがたまり、ポイントを使って普通席の料金でグリーン席にアップグレードできるというものである。シコシコとポイントを貯めていった結果、のぞみグリーン車にアップグレード可能となり、それなら最長区間である東京〜博多間で使おうということで、今回の旅の目的のひとつが決まった。

どうせグリーン車に乗るなら、例によって「走る居酒屋」にしようと思い、自席でタバコを吸える博多行きのぞみを探したが、これが割合と困難な作業だった。ご存知のとおり、のぞみはN700系化が進み、山陽区間に直通する全ての定期列車はN700系となった。臨時列車は700系が主力だが、東京〜博多間を直通する臨時のぞみは少なく、運転日と時刻を厳選しないといけない。結局、三連休初日の10月9日、東京発14時13分の「のぞみ177号」を予約した。

東海道筋の住人にとって、東京〜博多間を乗り通すのは、かなりムダな作業である。東京でとんぼ返りしつつ、新幹線の同じ区間に乗車するのは、いくら鉄道好きな私でも辟易とする。そんなわけで、東京までの往路に工夫を凝らすことになる。今回は、浜松〜静岡間こそ新幹線に乗車するものの、そこから博多までは一筆書きルートとなる。まずは、甲府行きの特急ふじかわ1号から旅を始めた。

未明からの雨に濡れながら車内に駆け込むと、全ての座席が進行方向と逆向きにセットされていた。富士で進行方向が逆になるため、あらかじめ静岡発車時からこの向きになっていると放送があった。ただでさえ旅の始めから雨に降られ、落ち込んでいるところに、心持ちを後ろ向きにさせる仕打ちである。仕方が無いから、富士までは車窓を眺めることなく黙々と新聞を読み続けた。

富士からはローカル線ムード満載の身延線を北上する。今から20年あまり前、弟が甲府で学生生活を送っていた頃は、下宿に遊びに行くためによく身延線に乗ったものである。弟が浜松に戻ってきた後は、まるで乗らなくなった線路なので、懐かしくもあり、新鮮でもあった。さっきは「雨でテンションが下がる〜」と書いたが、実のところ列車に乗っている限りは、雨や雪がそぼ降る車窓が好きである。霧に煙る富士川を左手に見ながら、列車はゆっくりと甲府に向かっていった。

甲府で特急ふじかわを降り、ひと駅だけ中央東線の鈍行に乗って酒折で下車。弟が近くで下宿していたので、20年ほど前に何度か降り立った駅である。当時は味わいのある木造駅舎だったが、今では建て変わっていてモダンな駅舎に姿を変えていた。こんな小駅でわざわざ下車したのには理由がある。それは、昔々私がJR線の完全乗車を目指していた頃、やがて来る全線踏破の地をどこにしようかと逡巡した末、多少ゆかりがあり、大好きな「酒」の字が入っているこの駅に決めたからである。酒折を最後の地と決めた以上、隣の石和温泉との区間は、いつか来る記念すべき日に残しておかねばならない。今日現在、既にこの区間以外は全て乗り終えているが、ひとり旅の途中に完乗するわけにもいかず、今日も酒折と石和温泉の間は別の手段を使わないといけない。バカらしいと思いながらタクシーで石和温泉駅に向かった。

石和温泉からは特急かいじ108号に乗車。連休初日のお昼前後というのに自由席の乗客は数えるほど。さきほどの「ふじかわ」もそうだったが、隣の席が空いていると、ゆったり旅の気分に浸れる。ところで、石和温泉間〜酒折間の乗車を避けているため、中央東線の八王子から甲府は、私にとって滅多に乗らない区間である。今日もほぼ初見のような新鮮さで、県境の墨絵のような山並みを堪能した。

新宿からの中央快速線が、この日唯一の通勤電車区間。休日の都内は人出が多く、リュックを持った旅姿の私は完全に浮いている。おまけに石和温泉駅前のサティで買った乾き物のレジ袋を抱えている。周囲の視線を感じながらの難行苦行だった。


JR線完乗の舞台となる予定の酒折駅


20年あまり前の木造駅舎が雰囲気一新


バカらしいと思いながらタクシーで石和へ


新宿行き特急かいじ108号で上京


300系臨時のぞみで博多へ


右上にアクトタワー。浜松通過


京都で隣にいたドクターイエロー

さぁ東京駅からは、お待ちかねの300系臨時のぞみグリーン車である。17番ホームに着いたのは発車40分以上前だったが、早くも300系がホームに入ってくるところだった。車内整備を終えて自席に座ったのは発車30分前。ここから6時間におよぶ酒盛りの開始である。売店で買った崎陽軒のシウマイをつまみにビールで祝杯。N700系のようにハイテク化されていないが、昔ながらの重厚なシートに身を預けながら発車の時を待った

14時13分、東京駅を発車。まずは品川、新横浜に停車し、西へ向かう乗客を拾っていくが、10号車喫煙グリーン車に乗ってきたお客は10人もいなかった。新横浜を出ると270`で走るが、アクティブサスペンションのない300系ゆえ、前後左右の小刻みな揺れがちょっと不快だった。しかし飲み進むにつれて、そんなことも気にならなくなるが…

熱海の手前で減速し、ルーティン通り熱海駅をゆっくりと通過。のぞみが全く停車しない静岡県内に入る。のぞみ177号は、静岡県内と県庁所在地に新幹線の駅のない岐阜県、滋賀県および川崎市を除いて、全ての政令指定都市と県庁所在地に停車する。往年の東海道線を走る特急「つばめ」などは必ず浜松に停まり、「ハモニカ娘」などが歌にも登場している。のぞみに無視された静岡、浜松の両駅にゆかりのある自分にとっては忸怩たる思いだが、まぁ浜松を通過する列車に乗る経験はかなり珍しいことなので、今日に限っては面白がって浜松通過のシーンをカメラに収めた。通過時刻は15時30分前。東京からは1時間15分しかかかっていない。

名古屋あたりでは、かなり雨脚が強まり、車窓も雨粒で良く見えなかったが、京都までくると雨が止んでいた。ちょうど隣のホームにドクターイエローが停車していて、向かいのホームには携帯のカメラを持った人がさかんに黄色い珍客を写していた。私も参戦したが、車内からではその巨大な図体をファインダーに収めるのが難しく、なんとか撮れた画像が上のものである。

新大阪で乗客の半数が入れ替わり、新神戸、岡山と停車するたびに乗客が減っていく。雨は上がり雲が薄くなってきた。写真の世界では日が暮れた後の数分間、影の無い状態の時間をマジックアワー(またはマジックタイム)といい、三谷幸喜の映画タイトルになったこともあるが、今まさにその状態が続いている。姫路を通過してから岡山に停車する直前まで続いたから15分くらいだろうか。西に向かう新幹線は太陽を追いかけながら走るので、日暮れ時が長く続く。幻想的なマジックアワーを見ながら、飲むほどに酔っていく至福の時だった。

広島で大量に下車して、ついに10号車の乗客は私を含めて2名になった。こうなるとやり放題で、前のシートを回転させ、そのシートに足を投げ出した。少なくとも東京〜新大阪を走るのぞみでは不可能な芸当だと思う。新山口停車中にセルフタイマーで撮ったのが右上の画像。普通の顔をしているが、ウイスキーの水割りを水のように飲み、相当出来上がっている状態だった。

新関門トンネルを抜けて小倉に停車し、のぞみ177号はラストスパート。酒を飲み、タバコを気兼ねなく吸っていると5時間18分の旅路もあっという間である。19時31分に博多駅16番ホームに到着。300系が博多で見られるのもそう長くはないと思い、赤いテールランプを光らせた流線型の車体をカメラに収めた。


5時間以上乗車したグリーン車にて筆者


終点博多に到着した300系臨時のぞみ


いかにも離島の雰囲気な福江空港に到着


森と草原に囲まれた堂崎天主堂にて


緑の山と青い海、そして赤い戸岐大橋


どんな辺鄙な漁村にも教会がある。半泊教会


日本の果てにようこそ。間伏の海にi-miev


細く曲がりくねった山道の車窓に息を飲む


エコの象徴。風力発電とi-miev


白亜の天主堂を持つ水ノ浦教会

翌10月10日は、昨日の雨が嘘のように上がり快晴となった。ホテルを7時前にチェックアウトし、地下鉄で福岡空港へ。7時50分発のANA4915便で福江空港に向かった。今回、五島列島の福江島を目的地としたのは、ここで電気自動車をレンタルできるから。長崎県EV・PHVタウン推進事業の一環として五島列島全体で100台、ここ福江島には65台の電気自動車レンタカー(三菱 i-miev)が配備されている。輸送の関係でガソリン代が本土の1.5倍する五島において、このレンタカーは実に理にかなっている。一周140`の福江島なら、課題とされる電気自動車の満タン走行距離の短さも十分カバーできる(標準的な観光コースなら途中1回の充電で周遊できるそうだ)。気になるレンタル料金も、免責保険料込みで12時間5,775円だった。充電代も今のところ無料なので、(軽自動車ゆえ)2〜3人までの五島観光なら電気自動車をレンタルしない手はないといったところである。

福江空港到着が8時30分。借り出しの手続きを終えてi-mievのハンドルを握ったのは9時前だった。福江島を反時計まわりに一周することに決め、まずは長崎県の指定有形文化財で世界遺産暫定リストにも入っている堂崎天主堂に向かった。普段プリウスに乗っているので想像はできていたが、0発進の加速感が素晴らしい。低速域ではプリウスより優っているのではと感じるほどの加速が味わえる。プリウスでは20`を超えるとエンジンがかかってしまうが、i-mievはどこまでもモーターで走る。なんか電車を運転しているような感じである。海岸沿いの狭いワインディングを軽快にさばきながら15分ほどで堂崎天主堂に到着した。

堂崎天主堂は1908年(明治41年)に完成し、既に100年以上この地に建っている。赤レンガ造りゴシック様式の教会で、聖堂は資料館として公開されている(拝観料300円)。内部の撮影は禁止されているのでカメラに収めることができなかったが、正面奥のドーム部分の構造が印象的だった。また、山が間近に迫る海辺に建っているので、赤レンガが海の青さや森の緑と好対照をなしていて、誰もが「あ〜いいところに来たな」と感じる場所である。海辺の草原から天主堂をバックに記念撮影して、堂崎教会を後にした。

次は、クルマに積んであったモデルコースの中で「運転上級者(プロ)向き」と書かれていた半泊教会を目指す。確かに離合不可能な山道を延々と走った先の漁村にあったが、もとより逆方向からクルマが来るようなことがほとんどないため恐れるに足りない。教会は海辺に建つ民家風で、こんな辺鄙な場所にも教会があることに感動した。教会のすぐ上の坂道沿いには小学校の分校も建ち、この辺の中心地なのかもしれないが…


行楽客で賑わう魚津ヶ崎公園のコスモス畑


本土ならきっと○○松島と呼ばれそう


無人島の姫島がぽっかり浮かぶ高崎鼻


うたた寝に気持ちの良さそうな草原が続く


南欧風のモザイク壁画を持つ三井楽教会


灯台、辞本涯石碑、空海銅像の柏崎公園


日本の最果てを物語る辞本涯石碑と筆者


遣唐使船の日本最後の寄港地の三井楽


急速充電スタンドで充電中


急速充電といっても30分かかる


急速充電できる道の駅「遣唐使ふるさと館」


ステンドグラスを見たかった貝津教会


日本で最も美しいと言われる高浜海水浴場


エメラルドグリーンの海が眩しい浜辺


魚籃観音は航海と漁業の神様


井持浦教会はルルドの洞窟がある

せっかく半泊まで来たので、名もない半島をさらに北上し、福江島最北端の集落である間伏まで行ってみた。林に囲まれた山道の木々の間から時折望める小さな入り江の美しさに息を飲む。さらに細くなった道路を慎重に走り、ようやく間伏集落に到着した。この島の岬では珍しくもない風景かもしれないが、海と丘、そして細く曲がりくねった道のある、この地の風景にいたく感動した。私が行ったことのある「日本の果て」では与那国島が最右翼だと思うが、こと雰囲気だけならここも負けていない。i-mievを辻に停めて坂の上から撮った画像は、今回の旅のベストショットだと思う。

間伏を後にし、先ほど通った狭い山道と15分ほど格闘し、ようやく県道に出た。この県道も必ずしも広い道ではないが、今までの道から比べると天地の差で、ホッと一息つきながらアクセルを踏んだ。次の目的地は岐宿のメジャーな観光地。国道384号と合流すると交通量が目立って増えた。私同様にレンタルしたと見られるi-mievを何台も見かけるようになった。国道を右に折れてしばらく行くと、目指す魚津ヶ崎公園があった。海岸に視線を移せば奇岩が重なる海岸線とぽっかりと浮かぶ島、陸側を見れば満開のコスモス畑。離島になければ○○松島みたいな呼び方で、今日のような三連休の中日には観光客がどっと押し寄せそうな場所だった。散見される行楽客はのびのびと楽しんでいるようで微笑ましい。

公園を出てさらに北上すると、風力発電のプロペラが3基建つ八朔鼻もほど近い。お約束的な感じだが、風力発電のプロペラとi-mievを並べて撮影し、「環境に優しいゼロエミッションの乗り物です」という広告にぴったりな図が撮れた。その後、岐宿のもうひとつの名所、白亜の水ノ浦教会に立ち寄って西隣の三井楽に移動した。

三井楽といえば遣唐使が日本で最後に立ち寄った場所として有名で、「遣唐使ふるさと館」という道の駅もある。実はここには急速充電器があり、昼休みを兼ねて充電しようと思っていたが、ちょうど前を走っていたi-mievも同じ目的だったらしく、タッチの差で2基ある急速充電器が両方とも使用中となってしまった。ガソリンスタンドなら給油を終えるまで待つところだが、充電に30分もかかるのでは待つわけにはいかない。仕方なく三井楽の名所回りを先に済ませることにした。

中島鼻や高崎鼻といった小さな岬を回った後、内陸に入って三井楽教会に立ち寄った。昭和46年に建てられたという聖堂にはファンキーなモザイク壁画が描かれていて、「今日は教会めぐりのような感じだが、いろんな教会があるもんだ」と思った次第である。教会を出て少し北上すると、柏集落がある。そして、集落の細い路地を海に向かって進むと柏崎公園に行き着く。遣唐使船の日本最後の寄港地がここで、昔は「美弥良久(みいらく)の崎」と呼ばれていたという。空海が唐に向けて出発した時に「本涯を辞す」と記したことから「辞本涯」の碑が立っている。日本最果ての地から命がけで旅立つ姿が思い浮かぶ話である。というわけで、最果ての日本をリポートするこのページのタイトルに、この「辞本涯」という言葉を借りた次第である。

柏崎公園から遣唐使ふるさと館に戻り、今度は急速充電器が1基空いていたので事無きを得た。専用のICカードを充電スタンドにかざし、ガソリンスタンドのノズルのような端子をクルマの充電端子(給油口部分)に差しこんだ。充電スタンドに「充電まで残り30:00」という表示が出たので、そのままクルマを離れた。やっている作業はセルフスタンドと同じ流れなので、何も考えることなくスムーズに充電までこぎつけた。30分のインターバルを利用して、昼食をとったり館内を見て回ったりしたので、充電待ちもそれほど苦にはならなかった。

30分後、電池容量が75%まで回復して充電完了。福江島一周の残り半分のスタートである。まずは数年前に「日本で最も美しい海水浴場」に選ばれた高浜海水浴場を目指す。国道を走っていると「←貝津教会」の看板が見えたので、食傷気味ではあるが貝津教会に寄ってみた。最初に見た堂崎教会以外は、どの教会も内部が公開されているわけではないので、ただボーっと外から建物を見るだけである。案内によると「色とりどりのステンドグラスが美しい教会」となっているが、中に入れなければどれだけ美しいのか確認のしようがない。無駄足だったと感じながら国道に戻った。

高浜海水浴場の手前に、「魚籃観音→」の看板を見かけ寄り道。航海と漁業の神様らしく立派な銅像が立っていた。しかし銅像よりも、高浜・頓泊海水浴場が見渡せる小高い山にあるロケーションが気に入り、デジカメのシャッターを押しまくった。高浜海水浴場のロッジ越しに撮った「午後の水平線」の画像もいいが、上からのエメラルドグリーンに輝く海の眺めも捨てがたいものがある。その後、高浜海水浴場で浜辺を申し訳程度に歩き、クルマに戻って先を急いだ。

国道384号をノンストップで突っ走り、次のターゲットは大瀬崎を中心とした玉之浦地区の観光スポットである。大宝で県道50号に左折し、海沿いの細いワインディングを走ること10分、井持浦教会に到着した。福江島の玄関である福江港のちょうど逆側にある不便な場所だが、それにしては立派な教会が建っていた。その理由のひとつは、この教会の裏手にルルドと呼ばれる洞窟があり、日本全国の信者が巡礼に来るためらしい。聖堂の建立は堂崎天主堂よりも古い1895年(明治28年)で、堂崎同様に赤レンガ造りである。

井持浦教会の次は、公開中の映画「悪人」で、主人公の2人が最後にたどり着いた場所、大瀬崎である。ここの灯台での感動的なクライマックスシーンを見て(私は見てないけど)、ここを訪れる人が激増しているらしい。しかし灯台までは駐車場からハンパない山道を登って下って20分。灯台で過ごす時間も含めて1時間費やすことになるので行くのをあきらめ、かわりに遊歩道から少し登った展望広場から灯台を眺めた。最果てに立つ孤高の灯台という感じがして、これはこれで来た甲斐があったと思う。ちなみに、ここでFMラジオを聞いたら、NHK-FM以外はすべて朝鮮語放送だった。


“Farewell To The Seashore” 午後の水平線


大瀬崎手前の展望台より大宝崎を望む


展望広場から孤高の大瀬崎灯台を望む


断崖絶壁に立つ大瀬崎灯台


空海由来の「西の高野山」 大宝寺


小高い丘の上に建つ大宝寺奥の院


富江温泉センターで急遽充電するハメに


南国ムード漂う多郎島公園に西日差す


福江港でi-mievに今日三度目の充電


福江港ターミナルは五島の海の玄関


最後に立ち寄った福江城(石田城)の城門


福江城の敷地に建つ城山神社

太陽が西に傾き、先を急がねばならない。県道50号を大宝まで戻り、南に折れた集落の中に大宝寺がある。この大宝寺は、空海が遣唐使と一緒に日本に帰る途中に立ち寄り、真言宗最初の道場として布教したという、考えてみれば凄い場所である。それゆえ別名「西の高野山」と呼ばれている。別名は「西日光」と似ているが、耕三寺の方は昭和に入ってから日光を真似て建てられたお寺、こちらは空海ゆかりのお寺ということで全然別モノである。とはいえ、境内には長崎県の有形文化財である梵鐘のほかは見るべきものが無く、奥の院まで登って参拝し、そそくさとお寺を後にした。

大宝寺から福江に戻らないといけないが、電池の残量がギリギリである。おまけに国道384号は、ここから海岸沿いを何度もアップダウンするため、坂を登るたびに残量が減っていきヒヤヒヤする。早々に福江までノンストップで行くのをあきらめ、途中の富江温泉センターで充電することに決めた。走行可能距離10`を切ったところで、なんとか富江に着き充電開始。電池が本当にカラカラだったらしく、充電完了まで所定の30分以上かかってしまった。充電完了すると、また気が大きくなって、南国ムード漂う多郎島公園に逆戻り。奇岩織りなす「すけ漁」の漁場を西日を浴びながら眺めていた。

そうこうしているうちに、レンタル期限の18時まで1時間ちょっととなり、福江へ急いだ。ガソリン車と同様、レンタカーを返す時には必ず充電するルールなので、福江港の充電スタンドで今日3回目の充電。さすがに富江で充電したばかりなので、12〜3分で充電が完了した。返却まで30分くらい残ったので、レンタカー屋さんまでの道程途中にある福江城(石田城)に立ち寄って、忙しいながらも充実した一日を締めくくった。降り立った時には朝日に照らされていた福江空港に再び戻った時には、既に夜の帳が降りていた。
<終>

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