令和に蘇った開放寝台 |
荷坂峠を下り紀伊長島で一息つく |
|
私のお気に入りの電車のひとつである117系が引退してからはや1年。その117系を改装して生まれた「WEST EXPRESS 銀河」に乗車する機会に恵まれた。今月9月の勤務シフトが決まったのが先月末。そのシフトの中に平日の連休がはまっていることが分かった。折しも今年の秋冬に運行される山陽路の夜行に乗車しようとプランを練っていたところだったので、現在運行中の紀南コースはノーマークだった。運行予定を調べると新宮→京都の昼行列車が連休1日目に走ることが分かり、慌ててクシェット(2段ベッドの指定席)をネット予約した。運行日の10日ほど前の予約で、発売開始から時間も経っているので2段ベッドの上段しか空いていなかったが、まぁよかろう。ブルートレインの全盛期には寝台列車の立席特急券利用を「ヒルネ」と称して、運行区間の末端部で解放B寝台を座席として利用できたが、令和の時代になってこんな体験ができるとは夢のようである。 2024年9月11日、久々に遠鉄電車の始発で出発し、浜松から大垣行きの特別快速に乗車。在来線下り方面の始発列車である。1時間半ほどで名古屋に到着し、次の列車は特急南紀1号である。2度目の乗車となるハイブリッド気動車HC85系の2両編成で新宮を目指す。三重県内の紀勢本線の見どころはなんといっても荷坂峠越え。特に上り列車の場合は連続する急勾配のため非力なキハ58では歩くようなスピードで登っていた。頂上の梅ケ谷駅でほっと一息ついた気動車に何度も乗ったことがある。まぁ今回は梅ケ谷から紀伊長島まで一気の下り坂。蓄電池が満充電になりそうなルートである。 | ||
お馴染の新宮駅だが実は久々 |
世界遺産に追加登録された阿須賀神社 |
紀伊長島から熊野市にかけてはトンネル→海岸線→トンネルの繰り返し。時折チラッと見える海の青さが印象的だが、あいにく山側のシートに座っている。熊野市を過ぎると割と平野部が多く海側は松林が続く。七里御浜と呼ばれている海岸である。そのうちに熊野川を渡って和歌山県に入り新宮駅に到着。ここで列車を降り紀伊勝浦に向けて発車する特急南紀1号を見送った。 さて列車やバス、マイカーはてはバイクでも訪れている新宮市。それでも振り返れば新宮駅に列車で到着したのは久々である。特急銀河の発車まで1時間半ほどあるので、できれば新宮の名物である「めはり寿司」を食べたいところだが、著名な店は水曜定休とのこと。テイクアウトなら駅前の徐福寿司でも買えるとのことだが、今回はあきらめて街歩きすることにした。 いつだったか訪れたことのある徐福公園を抜けて熊野川方向へ。阿須賀神社が500メートル先にあるそうだ。2016年に世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の登録資産が見直された際に新たに阿須賀王子跡が登録された。それが目指す阿須賀神社である。到着すると立派な世界遺産の石碑に出迎えられた。残暑厳しい正午過ぎにとことこと歩いてきたが、社殿の奥の緑濃い蓬莱山と社殿の朱色のコントラストが見事で訪ねた甲斐があった。 その後、熊野川の河畔まで歩き駅へと戻った。新宮駅に帰ってきたのは12時半ごろ。WEST EXPRESS 銀河の発車時刻まで30分以上あったが、ホームで出迎えようと思い改札を抜けた。お目当ての列車は留置線から発車し亀山方の本線で折り返し12時55分ごろに入線。入線までの一部始終は左下の画像から動画でどうぞ。 さて念願の銀河の車内に入ってまずは車内探険。フリースペースが多く、特に4号車は車販カウンターとテーブル付きのボックスシートなど、まるまる1両が定員外のスペースで(「遊星」と愛称がつく)、仮にクシェットの上段の予約であっても、ベッドの上で縮こまらずに過ごせるようになっている。というわけで4号車のマルシェと呼ばれる売店で、銀河限定の熊野牛コロッケバーガーとめはり寿司を購入。自席の2段ベッドに帰って酒の肴とした。 それにしても長時間停車の多い列車である。昼間からハイボールをしこたま飲んだため、太地ぐらいから本当の昼寝をしたが、1時間ぐらい経った串本駅停車中に目が覚めた。そのうち発車するだろうとベッドの上でまどろんでいたが、なかなか発車しない。15時を回ってようやく発車。串本駅での停車時間は36分だった。新宮駅発車から後発の特急くろしお号に4度も抜かれ、新宮~新大阪間の所要時間は7時間を超える。特急とは思えない鈍足ぶりだが、ゴロ寝しながらぐーたら過ごせるので、たとえ昼行でもクシェットが過ごしやすくコスパもいいなと感じた。 初秋の太陽は西に傾き、海面に反射する日光が徐々に勢いを失うころ海南駅に到着。ここで予約販売の夕食を受け取りに改札の外に出る。JR西日本のサイトで予約するのだが、思いのほか多くの人が受け取りに来たので面食らった。夕食は鱧の寿司が2種類。こちらもハイボールの肴として美味しくいただいた。 紀勢線から阪和線に入り、あべのハルカスをはじめ高層ビル群が近づき天王寺。大阪環状線を走り、うめきたの大阪地下駅を発車するといよいよラストスパート。淀川を渡って新大阪駅で下車。新宮からの長い旅路は終わった。 というわけでWEST EXPRESS 銀河に初めてて乗車したが、感想としては「一度乗ればいいかな」という感じ。できれば夜行でなく昼行の方が昼寝したり車内をぶらぶらできるので好ましいと思った。結局、秋冬の山陽路の夜行銀河には乗車しないことにした。 |
2016年に阿須賀王子跡として追加登録 |
緑濃い蓬莱山を背景に朱い社殿が映える |
|
阿須賀神社の裏手に流れる熊野川 |
長時間停車の海南駅で駅舎を撮影 |
|
昼行の「WEST EXPRESS 銀河」クシェット上段でいわゆるヒルネの旅を繰り広げる |
||
<終> |