銚 電 フ ラ ワ 乗 り つ ぶ し


JR線ホームの先にある銚電乗り場

6月終わりに大人の休日倶楽部パスを初めて利用したが、あっという間に次の利用期間が来てしまった。前回は距離は稼げたが、特急列車に乗っているばかりで変化に乏しかったので、今回はちゃんと目的を持って、比較的近場を旅しようと考えた。まず第一の目的は埼玉県内に泊まること。今まで日本国中いろいろな所に行ったが、47都道府県の中で唯一埼玉県だけ泊まっていない。まずは小骨がささったような事実を解消したい。ちなみに山形県も花笠まつりの添乗で泊まった蔵王温泉の一度だけなので、そのうちにちゃんと自分で手配して泊まりたいと思っている。

第二の目的は、未乗の第3セクターに乗ること。JR線をほぼ完乗して以来、乗りつぶしの旅はJRの新規開業区間に限られており、それが「目的もなくただ乗るだけ」という旅を乱発している原因だと感じた。日本国内の全ての鉄道を完乗するというのは、考えただけでも面倒臭そうなので、国鉄・JRの路線から経営母体が第3セクターに変わったところを全て乗ってみようかと思っている。というわけで、今回は東北ブロックでありながら割と手ごろに乗りつぶせる山形鉄道フラワー長井線を完乗する。その他、宿泊地である大宮に向けて成田エクスプレスを利用するので、ついでに気になっていた東成田駅と芝山鉄道も見たいと思い旅程に織り込んだ。

さて旅行当日はあいにくの空模様となってしまった。潮来にちょっと立ち寄る予定だったが、この雨の中歩くのは億劫になり、銚子まで総武線特急しおさい号で単純往復することにし、浮いた時間で銚子電鉄に乗ることにした。浜松からこだまで熱海に出て、そこから大人の休日倶楽部パスの利用を開始。まずは東海道線のグリーン車から旅をスタートする。viewカードのポイントで普通列車のグリーン券が交換できるので、あらかじめ400ポイントで利用券2枚と交換しておいた。当座は熱海〜大船間をグリーン車に乗るが、券面は「熱海〜成田空港」としておいた。もちろん銚子からの帰りに、佐倉〜成田空港間で利用するためである。朝8時台の東海道線上りは不快なほど混雑するが、グリーン車利用となれば話は別。リクライニングシートをいっぱいに倒して、2階席から優雅に相模湾を眺めた。

熱海を出発して1時間ちょっと。大船駅で普通列車を降りて、成田エクスプレスに乗り換え。大船〜東京間の利用なので、そのままグリーン車に乗っていればいいものを、特急指定券を無駄遣い。6枚まで無料で指定券を発券できるので、ついついこんな使い方をしてしまったが、のちのち「使わなきゃ良かった」ということになるとは。。。まぁこの時点では次の特急しおさい3号が同じ東京駅地下ホームから発車するので、まずまず正当な使い方だと思っていたが。。。


多くの乗客が待つ熱海駅より旅が始まる


大船〜東京の短区間でもパスの威力でNEX

千葉エリア編
東京駅では46分の待ち合わせ。総武地下ホームでは時間をつぶせる訳もなく、駅弁を仕入れにグランスタへ。東海道線からグランスタ経由で地下ホームに降りても不便はないので、ますます成田エクスプレスを利用した意味が薄くなってしまった。まぁこの時はそんなことを思うこともなかったが。。。グランスタでは期間限定の「知床鮨」を仕入れてご満悦。まだ午前中だというのに、しおさいの車内でビールを空けた。

特急しおさい号は255系9両編成。「Boso View Express」の愛称で1993年にデビューした。183系との置き換えなので、当時としては快適な車両だったが、20数年経った現在ではアコモデーションに不満が残る。まずは窓の大きさ。「ビュー」を名乗る割には窓の下端が高く、外を見るのに顎が上がる感じとなる。座高がかなり高い自分でもそうなので、小柄な女性がリクライニングを一杯に倒すと顔の半分は隠れそうである。そしてシート。グリーン車はいまどき2列+2列だし、普通車のシートは隣席との間にひじ掛けがない。東京〜銚子間では高速バスがライバルとなるが、このアコモデーションでは苦戦するだろうなと感じさせる。反面、9両編成中7両は自由席で、指定券を取らなくても気軽に乗れるのが美点か。私も指定券を持っているにもかかわらず、往復とも空いている自由席に座った。途中駅から乗っても十分席にありつけるのは素晴らしい。

昼前からのビールが影響したのか居眠りをしてしまい、目が覚めると銚子の一つ手前の松岸を通過していた。そして数分後、終点銚子に到着し、東京駅からの1時間47分の旅は終わった。銚子は駅舎改装中のうえに外は雨が降っていて居場所がない。35分の待ち合わせであるが、早めに2・3番ホームの先にある銚子電鉄の切り欠きホームに向かった。銚子駅には銚子電鉄専用の駅舎がなく、ホームの待合所にも駅員がいない。それじゃフリーきっぷはどうすれば買えるのだろう?答えは車内で車掌さんから買えばいいとのこと。そういうわけで車掌さんは、ありとあらゆるきっぷを持って乗務していた。外川往復は普通に買えば680円。往復割引乗車券を使えば600円だが、私はきっぷを手元に残したくて弧廻手形700円を購入した。銚子電鉄が一日乗り放題となり、有名な「ぬれ煎餅」が1枚もらえ、ほかにも沿線の観光施設が割引となるスグレモノである。

さて銚子電鉄といえば、私にとっては小学生のころの社会科副教材が思い浮かぶ。詳細は忘れてしまったが、犬吠埼と銚子の町が立体的に書かれ、その間を縫うように銚子電鉄の電車がぐるっと弧を描くように走っている。犬吠埼には白い灯台と地球の丸く見える丘が描かれ、小学生の私はいつか行ってみたいと思うようになった。同じようなところに熊本県の通潤橋があるが、あちらは2001年に訪問を終えたが、近いほうの銚子は今まで残ったままだった。それに元々銚子電鉄に乗る予定がなかったのだから、雨降りだったのも悪くはない。

13時05分に銚子駅を発車。車両はローカル私鉄では毎度おなじみの元京王3000形で、伊予鉄に譲渡されていた車両が再譲渡される形で、関東に出戻ってきた。次の仲ノ町駅で今では懐かしいタブレット交換が行われる。ここには銚子電鉄の本社があり、修理工場も併設されている。側線の奥には2015年に引退した元地下鉄丸ノ内線の1000形が、金魚電車の塗色のまま置かれていた。次の観音を出ると森の中を登っていく。遠鉄電車も昔は小林以北で森の中を走っていたが、今では沿線の開発が進み、そんなところは無くなってしまった。そして、しばらく行くと車内アナウンスにちょっと違和感を覚えた。「次は笠上黒生、かみのけくろはえ、かさがみくろはえです」一瞬聞き違えたのと思ったが、シャンプー会社がネーミングライツを買ったため、駅の愛称が「髪毛黒生」となったとのこと。ちなみにここで上下線の列車が交換し、タブレットも交換される。ネーミングライツといえば海鹿島駅は「とっぱずれ」という愛称を持つ。海鹿島が本州最東端の駅に因んで、ネーミングライツを買った会社とは無関係の愛称を付けたのだろう。

255系特急しおさい3号が銚子駅に到着


JR東日本最東端の銚子駅は駅舎工事中


元京王〜伊予鉄の車両が第二の人生を謳歌


小学生時代の社会科教材の地・外川に立つ


外川駅の留置線に置かれているデハ801


成田空港の敷地内にある東成田駅を探訪


空港第2ビル〜東成田の通路入口


利用されていないホームの壁に旧駅名が


日本一距離が短い芝山鉄道の終点に到着


東成田への連絡通路は500mほど

車内放送を楽しみながら、犬吠そして終点外川と走り、あっという間に銚子電鉄は完乗。外川駅では記念撮影とデハ800形を撮って、すぐ折り返してきた。帰りの電車は犬吠でバスツアーの乗客が大量に乗り込んできた。混んだ電車は嫌いだが、銚子電鉄にとっては喜ばしいことだろう。

銚子駅では12時30分に到着した後、ずっと1番線に留め置きとなっていた255系に乗車。14時17分のしおさい10号として銚子駅を発車する。例によって指定券を取っていたものの、空いている自由席に乗車。先頭車の1号車はホームでは屋根のない場所に停まることが多く、雨に濡れるのを気にしてか、佐倉までの途中駅では1人も乗り込んでこなかった。

佐倉からは成田線の快速エアポートに乗車。朝利用したグリーン車利用券を再利用して、がら空きの2階席に座る。とはいえ、わずか27分で成田空港の空港第2ビル駅に到着し、乗り心地を味わう暇もない。いずれにせよ、ここから一度行ってみたかった東成田駅の探訪が始まる。まずは改札を抜けてすぐの場所にある東成田駅への連絡通路入口に向かう。思っていたよりも分かりやすくて助かった。今まで何回もここを通っているのに一切気が付かなかったのが不思議なくらいである。

連絡通路は500メートルほど。地下通路となっており、雨に濡れないのは助かるが、景色が単調で長く感じる。左に90度曲がったところから上り坂となり、登りきったところが東成田駅の改札口。帰りにも来るので、駅舎などは帰りに撮影することにして、ホームに向かう。島式1面2線のホームで、昼間は1時間に1〜2本とローカル線なみ。隣の使われていないホームは、蛍光灯が間引かれていて薄暗く、駅名表は旧名の「成田空港」となっていた。ほどなく16時38分発の芝山千代田行きが来て、約3分間の芝山鉄道の完乗の旅が始まった。


地下区間から一転高架となる芝山千代田駅


結局もう一度快速エアポートに乗ることに


成田空港から2時間かけて大宮に到着


朝イチのつばさ単独運転に乗車し赤湯へ


埼玉県内初宿泊で全国制覇


山形鉄道赤湯駅の営業時間は10時半から


南陽市の千本桜をイメージしたラッピング


フラワー長井線の旅がスタート


故宮脇俊三氏の終戦の場所

地下区間を抜けると同時に成田空港の敷地からも脱出。高架区間となって終点の芝山千代田駅に到着。駅前に出てみると意外に普通の場所だった。雨が降っているので駅周辺の散策をあきらめ、乗ってきた電車でとんぼ返りすることにした。発車まで時間があったので、この後どうしようかと策を練っていたが、予定通り東成田で下車して成田空港駅まで行くとすると、雨の中を歩くことになり、かなりかったるい。また今後、日本の鉄道の完全乗車を目指すなんてことになると、成田〜東成田が未乗区間で残ってしまい、再訪するのも大変である。結局、京成成田まで乗車することにした。その結果、東成田駅舎の撮影は断念せざるを得なかったが。

京成成田に到着し、きっぷ代をケチるため、そぼ降る雨の中をJR成田駅まで徒歩連絡。再び快速エアポートに乗車して終点の成田空港に到着。ターミナルビルでうどんを食べて、18時48分発の成田エクスプレス46号に乗車した。今回の旅で最も楽しみにしていた列車で、特に東京を発車した後、帰宅ラッシュの横須賀〜湘南新宿ラインを尻目に、山手線に沿って走るのが見どころだった。成田空港から大宮まで約2時間の旅路で、ゆっくり酒盛りができて大満足。20時45分に終点大宮に到着し、念願だった埼玉県内の宿泊を叶えた。

山形エリア編
翌朝は6時38分発のつばさ121号でスタート。E3系7両編成が単独で東北新幹線を走る列車で、一日のうちに何本も走らないレアなやつである。とはいっても乗ってしまえば普通のつばさと何ら変わりなく、できれば外から走るところを見てみたい列車ではある。2時間ほどで赤湯に到着し、山形鉄道フラワー長井線に乗り換える。待ち合わせ時間が17分あったので、まずは西口の山形鉄道の駅舎の方に行ってみた。ところが、あてにしていた窓口は10時30分からの営業ということで、1,000円の利用券を買いそびれてしまった。仕方なく駅舎だけ撮影して山形鉄道のホームに向かった。


降りしきる雨のため荒砥駅では記念撮影のみ


鉄道むすめラッピング車はロングシートだった


日本最古の長大鉄橋は木曽川から最上川へ


直前まで乗車予定だった坂町行き列車


キハE120系快速べにばな号で旅を締めくくる

フラワー長井線専用の4番線に停車していた列車はYR-880形の単行で、さくらのラッピングが施されていた。南陽市烏帽子山の千本桜をイメージしているそうだ。南陽といえば掲示板の方でお馴染のつっちぃの出身地で、出身校もこの沿線の名門校なので、もしかしたら高校時代は長井線を使っていたかもしれない。そんなことを考えているうちに列車は発車した。しばらく南陽市内を走るが、最上川を渡って一駅だけ川西町に入る。この後、最上川を終点近くでもう一度渡るが、赤湯側が上流だとは思わなかった。線路としては荒砥に向かって山が近くなっているので、てっきり荒砥の方が上流だと思っていたが、人間の思い込みとは恐ろしいものである。

フラワー長井線は今泉で再びJRと接続する。JRとの接続駅が2つあって、かつ盲腸線という第3セクターは他に思いつかないくらい珍しい。さて、今泉といえば思い浮かぶのは故宮脇俊三さんのことである。氏はここ今泉駅の駅前広場で玉音放送を聞いたと記述している。それを読んで今泉駅の駅前広場を想像したが、実際に見ると想像していたよりもずっと狭い。もっとも終戦当時の駅前広場は現在よりももっと広かったのかもしれないが。。。

列車の方は主要駅長井を過ぎて、田んぼの中を淡々と走る。ときおり進行方向左手に鬱蒼とした林があり、それがあると決まって駅がある。線路の北西側に生えているので、おそらく鉄道防雪林として植林されたものだろう。そんなことを考えているうちに終点荒砥が近づき、もう一度最上川を渡る。この橋のトラスは明治期の東海道線木曽川橋梁のもので、現存する国内最古の長大鉄道橋とのことである。橋を渡ればほどなく荒砥駅に到着。例によって雨が降り続いており、街歩きは中止。折り返しの発車までに30分以上あったのに有効活用できず、とことんショボくれた旅となってしまった。

荒砥駅に車庫があり、帰りの列車は鉄道むすめラッピング車に差し換えとなった。このラッピング車だが、外見は派手だが中身はロングシート。これならさくらラッピングの方が良かった。さて、この後今泉で米坂線に乗り継ぐ予定だが、米坂線は混むだろうし、こんな天気では坂町から羽越線の普通列車に乗っても、どうせパッとしない感じになりそうである。それなら米沢に出て、つばさで東京に向かった方が早く家に帰れて、おトクのような気がしてきた。今泉で両方向が同時発車なので、もし坂町行きが混んでいるようなら米沢行きに乗ろうと心に決めた。果たして結果は両方向とも混んでおり、米沢行きに旅程を変更。ここで困ったのがつばさの指定券。大船〜東京間のNEXや、銚子往復のしおさい号などで浪費した結果、指定券を発券できる限度の6回を使い切っている。未使用の新潟〜東京間「MAXとき」の指定券をつばさに変更すればいいが、米沢での乗り継ぎは7分だけ。指定券の変更をするには微妙な時間である。昨日浪費をしていなければ、スマホで予約をして指定券発売機でちゃっちゃと発券すれば1分もかからなかったのに…。と後悔しても遅い。米沢の窓口対応に賭けることにした。そして、結果は。。。窓口氏がベテランだったことと、たまたま窓口が空いていたこともあり、ミッションクリア。11時38分のつばさ138号で帰途についた。

米沢で買った駅弁「牛肉どまん中」をビールと一緒に頬張っていると、列車は板谷峠に差し掛かっていた。私は車窓を過ぎていく山々を見ながら、今日の反省と未来の展望を交互に考えていた。反省点は「いい気になって指定券を浪費しないこと」、展望というか来年実現したいことは、「次回以降のパス利用期間で庄内の湯野浜温泉に泊まろう」ということ。温泉に泊まるようなのんびりした旅を、たまにはしてみたい…
<終>

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