ス ラ ン ト ノ ー ズ 昭 和 の 香 り


一時は着陸が危ぶまれた紋別空港にて

北海道新幹線が今年3月26日に函館新北斗まで開業した。中央東線の石和温泉〜酒折間を除いて(どうでもいいけど、この注釈はいつまで続くのだろうか)JR線全線に乗車している身にとっては、いち早くタイトルを奪還しておきたい。そういうことで、今回の旅の計画は昨年のうちから温めていた。そして今年の函館競馬が開幕する6月18日に、いよいよ実行に移すことになった。開幕日の前日に道東に飛び、引退迫るキハ183系に乗車しつつ函館に移動し、翌日競馬を見て「はやぶさ」で帰るというルートである。ところが、旅の出だしからつまづいた。オホーツク紋別空港の天候不良のため、旭川空港に降りるか、羽田へ引き返すという条件付き運航になってしまった。おまけにアップグレードポイントを利用しようと思い、自動チェックイン機相手に悪戦苦闘するも、どうしてもプレミアムクラスへの変更ができなかった。搭乗時刻も近づき気が焦り、グランドホステスさんに頼んで、長蛇の列となっていたカウンターに横入りさせてもらって事なきを得た。プレミアムクラスは事前予約客のみ食事を用意するとのことで、ぎりぎりでアップグレードした私の分は用意できるはずもなく、ミールクーポンでの対応となった。

ANA FESTAで2,000円分のミールクーポンを弁当に換え、オホーツク紋別行きのANA375便に搭乗。CAさんからクーポン対応へのお詫びを言われ、「よろしかったらホタテの雑炊とミネストローネがございますが、お持ちいたしましょうか?」とのこと。先ほど購入した弁当のこともあるので逡巡していると、「両方お持ちしましょうか?」と畳みかけられた。決まった、弁当は後回しにして、両方持ってきてもらうことにした。2つとも食べると腹はパンパン。それ以降は赤ワインや芋焼酎などを飲んで、昼間から酔っぱらってしまった。そこで教訓。プレミアムクラスはクーポン対応の方が得なので、喜んで受けるべし。



プレミアムクラスで提供される軽食

搭乗機が高度を下げ、頂上に雪を被った山々が見えるとほっとした。この視界ならば紋別空港に降りられるだろう。果たして滑走路にはスムーズに着陸して、「旭川に降りたなら、キップを旭川からに変更して、時間が余るようなら旭山動物園に行こう」などという妄想はどこかへ飛んで行ってしまった。それでも悪天候には違いなく、飛行機から到着ゲートまでの徒歩移動は雨に濡れた。次なる行程は無料送迎バスで遠軽へ。定刻の12時50分にマイクロバスが出発。乗客は総勢3名。しかし地元民だろうが、旅行客だろうが関係なく、紋別から遠軽へ発着便に合わせて無料送迎するなんて、なんと太っ腹な自治体だろう。ローザだったが、シートピッチが広く快適で、ここでも水割りを飲みながら、さきほどの弁当を食い尽くすという大宴会をやってしまった。おかげで遠軽まではあっという間だった。もっとも20分以上早着したことも理由のひとつではあるが。

早く着いてしまったため、遠軽でのオホーツク6号の待ち合わせは退屈だった。雨が降っているので散歩に出かける気にもならず、さりとて食べ物屋さんに入るわけにもいかず、結局駅の待合室で時の過ぎるのを待つのみだった。そんなこんなで、ようやく15時を回り改札の中へ。15時10分ころ定刻通り、貫通型のキハ183-500番台を先頭に入線してきた。遠軽駅でスイッチバックし、今度はスラントノーズの0番台が先頭になる。この車両こそ、今回の旅のひとつの目的である。もともと1981年の石勝線開通とともに、特急「おおぞら」に投入され華々しくデビューした。ちょうど私が中学生の時代で、鉄道に熱が入っている時期でもあり、その当時の鉄道趣味雑誌での取り上げられ方を鮮明に覚えている。それから35年の月日が流れ、塗色変更やリニューアル工事も随時行われたが、過酷な状況で使用されたこともあり、ここ5年の間に車両を更新すると発表された。そのうちの22両はその後も継続して使用するとのことだが、いずれにせよ定期的に走っている間に乗っておかねば、いつ485系や583系のように「残っちゃいるが、繁忙期の臨時列車しか走らない」ということになるやも知れぬ。まぁそんなわけで、わざわざ紋別まで飛んででも、キハ183系に乗っておこうと思った次第である。


あいにくの天気だが久々のオホーツク紋別空港


はるか遠軽まで無料送迎のマイクロバス


駅前通りから階段を上がった所にある遠軽駅


網走から2時間弱かけて遠軽へ。まだ道半ば


昭和が香る幕式の行先表示

遠軽から終点の札幌までは3時間半もかかる。もちろん始発駅の網走から終点まで5時間20分もかかることを思えばマシな方だが、長時間乗らねばいけないので、グリーン車をおごることにした。昭和の時代の車両であるが、2列+1列のアブレストに変更されていて居住性が良くなっている。しかし窓框が肩のあたりにあって視界がききにくいところに、お里が知れる。このグリーン車だが、人気があるようで、平日昼間にもかかわらず満席である。半数はフルムーン客っぽいが。まぁいくら混んでいても独立シートは気楽なもので、さっそく酒盛り。しかし羽田を出発してこのかた飲みに飲んでいるため、もう飲めるものではない。眠りに落ちそうになるところを必死にこらえて、この春廃止される際に話題となった旧白滝駅を撮影した。件の女子高生は遠軽高校に通っていたというから、このオホーツク6号の次に出る普通列車が、ちょうど帰宅列車だったかもしれない。それにしても、この区間は次々に駅が廃止されていき、遠軽と上川の間は特急でも1時間15分もかかるのに、2つしか駅を通過しないという不思議なことになっている。旧白滝とともに廃駅となった上白滝を過ぎたのをしおに、私はリクライニングをいっぱいに倒して眠りに落ちた。

目覚めると列車は旭川近郊を走っていた。右側から複線電化された線路が近づき合流。ここまでは道央と北見を結ぶ重要路線とはいえ、単線非電化のローカル線だったのである。すぐに新旭川を通過し、高架線となって旭川四条を通過、そして旭川に到着した。ここからは電車特急も走り、そちらの方が所要時間が短いのだが、キハ183系は老体に鞭打って爆走する。いわば、ここが最高の見どころといった区間である。砂川、美唄といった電車特急の停車駅を豪快にすっ飛ばし、札幌へと邁進する。18時47分、定刻どおり札幌に到着。場合によっては乗車機会があるかもしれないが、とりあえず「国鉄型」キハ183系とはこれでお別れである。

札幌駅で1時間少々のインターバルがあるが、改札外に出てしまうと札幌〜白石間の往復運賃を払わないといけなくなるので、改札内の蕎麦屋でたぬきそばを食べた。幌加内産のそば粉を手打ちしているとのことだが、やたらと汁がしょっぱかった。やっぱり、もりそばにしとけばよかったと後悔。店を出た後、また3時間半もタバコを吸えなくなるので喫煙所で一服し、ちょうど入線してきたスーパー北斗24号に乗り込んだ。こちらも生意気にもグリーン車を押さえている。


塗色が変われどデビュー当時のスラントノーズ


思いのほか混んでいた1+2列のグリーン席


車窓を過ぎ去る旧白滝駅(廃駅)の駅舎


札幌駅2番ホームにてキハ183系と筆者


駅歩3分のホテルテトラ函館駅前


寿司屋の朝食「かに酢飯丼」

今日は昼間から飲み食いを繰り返しているので胃の方もお疲れ気味。一方で、頭の方はさっぱり使っていないので、明日の函館競馬の予想をすることにした。新幹線の時刻を考えると第5レースの12時10分がタイムリミットとみられ、第1レースから5レース分の予想をすることになった。明日の函館競馬は今シーズンの開幕戦であるので、重賞がなくても人出がありそうだ。その証拠に指定席が発売開始と同時に売り切れ、その後一切キャンセルが出なかった。指定席の事前購入は前日の20時まで、つまりこのスーパー北斗24号が札幌を発車する時刻まで受付だが、結局待てど暮らせどキャンセルは出なかったのである。せめて勝って帰ろうと思い、予想に熱が入った。5レース分の予想が終わったのは、伊達紋別到着直前の21時半頃だった。


札幌から3時間半。真夜中前の函館駅に到着


函館競馬へのアクセスは函館市電で


朝8時半に来たのに指定席が取れないの図


2010年に改装され、見やすくなったパドック


函館競馬場の売りはコースの向こうに海が見えること。競馬中継でも芝1,200bの競走などで確認ができる

函館競馬収支表 (16.6.18開催)
投資 回収 収支 累計
1R 2,400 0 -2,400 -2,400
2R 1,400 1,460 +60 -2,340
3R 2,200 0 -2,200 -4,540
4R 2,100 5,040 +2,940 -1,600
5R 2,400 1,920 -480 -2,080
合計 10,500 8,420 -2,080 80.2%

予想が終わってうとうとしているうちに、列車は長万部、八雲を過ぎて、森ではっと目が覚めた。森はこの冬、当ホームページの開設20周年を記念して、暮れに来る予定である。問題はここに来るまでの手段で、今日のように3時間も4時間も列車に揺られるのは、いくら乗りテツの自分としても食傷気味である。函館空港まで飛行機でという方法もあるが、足場の悪い森では効果が薄れてしまう。いずれにしても考えどころではある。そんなことを考えているうちに大沼公園を過ぎて、新函館北斗に到着。本当はグリーン車を押さえているのはここまでで、あらかじめ特急券と乗車券を別買いしている自由席に移動しないといけないが、もうそんなことは面倒くさくなって、そのままグリーン車に居座った。函館到着は真夜中近い23時31分だった。

函館の宿は、駅前のホテルテトラ函館駅前。真夜中のチェックインということもあり、寝ることさえできれば質は問わない。おもしろかったのは朝食で、フロントに隣接したお寿司屋さんのカウンターで丼物を食べるシステム。ちょうどキャンペーンで、北海道新幹線のきっぷを見せると500円に割引きになるということで、かに酢飯丼を食べた。今回の旅の中で、最も地元ならではの食事だった。他にサーモンいくら丼と五目ちらし丼も選べるようなので、興味のある方はどうぞ。

朝食後、さんざん逡巡した挙句、先行予約で確保できなかった函館競馬場の指定席の当日枠を狙うことにした。昨年の開幕日は指定席が8時50分ころまで残っていたとあり、8時にホテルをチェックアウトすれば間に合う可能性ありと見た。函館駅前電停を市電が発車したのが8時5分。競馬場前の電停には8時半ころ到着したものの、タッチの差で残り1席の指定席を確保できなかった。最初から「当日枠を狙う」と決めていれば十分に間に合っており、自由席で良しとするならば、もう1時間チェックアウトを遅らせればよかったわけで、つくづく優柔不断さを呪った。それでも諦めきれずに、指定席の列が無くなるまで待ってみたが、整理券の配布間違いなど起きるはずもなく、予定通り全席が売れて販売終了。これでようやく諦めがついて、入場券を購入して競馬場の中に入った。函館競馬場にはリニューアル前に一度、リニューアル後に一度来たことがあり、初めての競馬場ではないが、過去の記憶はすべてにおいて吹っ飛んでおり、ほとんど浦島状態だった。まずは指定席エリアの直下にあたる自由席を確保し、第1レースが始まるまで場内を散策した。どうも札幌競馬場と記憶がごっちゃになっていて、屋上に上がろうと四苦八苦したが屋上はなく、代わりに海の見える展望デッキでしばしたたずんだ。そうこうしているうちに第1レースの発走時刻が迫り、慌てて自分の席に戻った。

第1レースは、今年の函館競馬の開幕戦。今日の馬券の購入方針はフォーメーションやボックスをやめ、軸馬1頭からの流し馬券を中心にしようと思う。となれば、当然レースでは軸馬の動きばかりを注目することになる。第1レースでは、その軸馬が先頭でレースを引っ張り「しめしめ」と思う。というのも先行有利の小回りコースで、開幕日となれば芝はもちろん、ダートでも行ったもの勝ちとなる可能性大だからである。しかし、その軸馬は直線になって、次々と差されて掲示板圏外となってしまった。「ちぇっ、なんだよ」と思わずひとりごちた。

続く第2レースも行けそうな馬から流す。こちらの方は、終始先頭を譲らず、最後は突き放す力強さで的中。しかし3着には想定外の穴馬が入り、馬連もワイドも1点ずつしか当たらず、あまりおいしい馬券にはならなかった。次の第3レースは武豊騎手の馬から流してみた。こちらも道中は先頭を走り、いい感じであったが、ゴール前で3頭に次々と差されて悔しい4着。どうもかみ合っていない感じである。

第4レースは上位グループと下位グループに実力差があるとにらんで3連複を購入。今回ばかりは軸馬が逃げ馬ではなかったが、しっかりと直線で伸びてくれて2着を確保。軸馬が1番人気だったものの、1着が4番人気、3着が6番人気ということで、意外なほどの高配当をゲットした。これで第5レースもクリーンヒットを続ければ、プラスで終われるかもという期待を持ちつつお昼休みに入った。


メインスタンドも小ぶりながら機能的だ


2016年函館競馬のオープニングレース発走


そのまま〜と差せぇ〜が交錯するゴール前


水曜どうでしょうの「ミスター」が今日のゲスト


昼休みに内馬場まで行ってメインスタンド撮影


3両編成ロングシートの電車「はこだてライナー」


一応アリバイのため駅名標を撮影

お昼休みに入るとすぐに、コース際のお立ち台で鈴井貴之さんのトークショーが行われた。そういえば今日のメインレースはHTB賞。HTBといえば「水曜どうでしょう」ということで、「ミスター」の登板はそういう意味かと思った。「水曜どうでしょう」に関しては、動画サイトやオンデマンド等で全ての回を視聴しているので、こんなところであの「ミスター」の話を聞けるとは思わなかった。それゆえに感慨ひとしおであった。

その後、午後のレース再開まで時間があったので内馬場の方にも回り、あらためて反対側からスタンドを眺めてみた。JRAの競馬場としては最小だが、やっぱり迫力のある大きさだった。正午を回り、第5レースの発走が近づいたのでスタンドに戻り、今日の最後の勝負の行方を見守った。馬券の買い方は人気3頭のうち2頭を軸にした3連複。結局その3頭で決まってしまい、3本とも馬券的中だが取りガミとなってしまった。今日の結果はマイナス2,080円。JRAの取り分を考えれば健闘した方ともいえる。

帰りの新幹線の時間もあることだし、用が済めばとっとと競馬場を出るしかない。競馬場前の電停にうまい具合に電車が入線してきて、ほとんどロスタイムなく函館駅へと戻った。13時02分の「はこだてライナー」発車までは、まだ20分以上もあり余裕の帰還だった。その「はこだてライナー」は札幌地区の通勤輸送でおなじみの733系電車の3両編成。新幹線のアクセス列車としては、輸送力・アコモデーションとも不満があるが、まぁ新函館北斗までが暫定開業だし、JR北海道もお金がないし、致し方ないところ。なんとか空席を見つけて座ったが、立ちんぼの乗客も多く、車窓ののどかさとは対照的な車内の様子だった。

さて新函館北斗からは、いよいよ新規開業区間で、私にとっては初乗りである。はやぶさ24号のグランクラスに身を沈め、ひとつ残らず見逃さないよう車窓に目をこらす。駅を出た途端に北海道の牧歌的な車窓が続くが、窓の高さ以上のところにある防音壁が邪魔で、車窓を思うように楽しめない。一瞬海も見えるが、ほとんどは壁かトンネルでは、わざわざ北海道まできた理由も薄れてしまう。そんなことを考えているうちに木古内に到着。在来線と比べて所要時間が短縮され、「え、もう木古内?」という感じだった。

グランクラスに大枚はたいて乗車したのは、4時間半という長時間乗車を楽にしたいという理由もあるが、一番はサービスを楽しみたいということである。軽食は和食を選び、一緒にビールを頼んだら、ご当地の「サッポロ・クラシック」が運ばれてきた。軽食の量は少なめなので、あとのつまみは持ち込んだ乾きものとなる。アルコールの方は飲み放題なので、こちらは体力が続く限り頼みまくる。まずはリンゴのシードル。これはジュースのような口当たりで青函トンネル走行中に飲み切ってしまった。次に日本酒。私にとって一番苦手な酒で、なおかつ東北独特の粘り腰がある銘柄だったので、結構飲むのに時間がかかった。まぁそれでも盛岡に着くころには次のお酒を頼んでいたが。その次は白ワイン。日本酒に比べれば飲みやすく、途中居眠りを挟んだものの仙台までには飲み切っていた。そして赤ワイン。こちらはじっくりと飲んだが、関東平野あたに出るころには飲み切っていた。こうしてみると醸造酒ばっかりなので、最後にコーラを頼み、持参のウィスキーを注いで蒸留酒で締めてみた。

さて、そうこうするうちに都会の景色になって、大宮、上野、そして終点の東京に到着。正直4時間半の乗車は長すぎる感があり、東北の距離感を実感した。浜松に住んでいると郡山も函館も「北の方」という意味で、距離の差はわずかに感じるが、実際は「はやぶさ」で過ごす時間のほとんどを占める。やっぱり北海道に行くとなると飛行機を利用するのが現実的だと思った次第である。

東京からは勝手知ったるこだまの喫煙車。梅雨の合間の一日で、東京では真夏日だったらしく、夕刻18時を過ぎても相変わらず暑かった。その夏のような暑さを癒してくれるのが、夕暮れに染まる車窓。タバコをくゆらせながら、水割りをちびちび飲めるという環境に身を置くと、大金を支払ってグランクラスに乗っていた自分がバカらしくなってくるから不思議である。


海も見える雄大な車窓に防音壁が水を差す


グランクラスのお楽しみである和軽食とビール


まずはリンゴのシードル(左)、日本酒(右)を


ワインは白(左)、と赤(右)いずれも飲み放題


我々の列車は盛岡でこまちを連結していたのね


グランクラスよりも空いているこだまが好き

<終>

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