Spring Tour '23

一度は乗りたいDMV


カンデオホテルズ南海和歌山


今から20年ほど前、JR北海道がレールの上と道路の両方を走れるバスを開発したというニュースが報じられた。私がDMVを知ったきっかけである。その後JR北海道は導入を断念したが、阿佐海岸鉄道が手を挙げ、2021年12月から営業運転を開始した。世界中でそこにしか走っていないDMVにいつかは乗りたいと思っていたが、運行開始当初の騒ぎがおさまった頃合いを見て行く決断をした。そして今回の旅、2023年のSpring Tourの一環で宍喰温泉まで乗車することになった。

2023年2月19日、日曜日の多忙な勤務を終え、浜松駅18時31分発のひかり521号で旅立った。夕方の下りひかり号で出発すると、乗った瞬間からSpring Tourが始まる感じで好ましい。また席に座ると同時に呑みテツができるものいい。朝の新幹線、それも始発列車ではこうはいかないのである。1時間半後、新大阪に着く頃にはすっかり出来上がっていた。まだ8時前。宵の口である。


シティホテル級の部屋に宿泊


和歌山港に到着した南海フェリー「かつらぎ」

御堂筋線で難波に出て、南海に乗り換え。特急サザン55号で和歌山市駅に向かう。途中までは快調に酒を飲み続けていたが、「サザンプレミアム」の快適なシートに揺られ、いつの間にか寝落ちしていた。目覚めると紀ノ川を渡っており、大慌てで降りる支度をした。この日は和歌山市駅の上にあるカンデオホテルズ南海和歌山に宿泊。ちなみに全国旅行支援を利用しているので、地域クーポンを翌日和歌山を出るまでに使い切らねばならず大変だった。結局駅前のセブンイレブンで使い切ったが・・・。

さて、ちょっと高めのビジネスホテルだと思って予約したカンデオホテルズだが、部屋は豪華で広く、最上階にはこのホテルの売りである大浴場があって居心地がいい。その大浴場には露天風呂も付いていて、昼間に入ったらさぞ気持ちがいいだろう。南海電鉄の株主優待券を持っているので、次は日の高いうちにチェックインして、このホテルを存分に楽しみたいものである。

翌朝は7時半すぎにチェックアウト。駅まで徒歩0分だからやっぱり便利である。和歌山市駅から一駅だけ路線を伸ばす南海和歌山港線に乗車。わずか4分で到着するが、四国連絡という重要な路線である。終点の和歌山港駅に降りると、フェリーの連絡通路から出てきて駅の外に向かうお遍路さんの一行とすれ違った。こういうところが四国連絡路線っぽい。

その連絡通路を通って南海フェリーの待合室へ。本州と四国を結ぶ航路にしては出札窓口もなく簡素なつくり。もっとも車利用のための窓口は駐車場に近い場所にあるのだろうし、あくまで南海電車を使って徒歩で乗船した視点からであるが。そうこうしているうちに乗船の時刻となり、列の一番最後に並んで乗船した。その昔はフェリーの席取り争いもあったようだが、シーズンオフの月曜日の朝ということもあり静かなものである。椅子席の自由席(といっても立派なリクライニングシート)に荷物を置いて船内探索に出掛けた。その模様は左下の動画を参照。

紀伊水道に出てしまうと海しか見えないので、もっぱらスマホに持ち出したTV番組を見て過ごす。スマホには先週末のオールナイトニッポン55周年の番組もダウンロードしており、暇つぶしには事欠かない。Spring Tourを始めた学生の頃は、旅行用に編集したカセットテープを持っていくくらいしかなく、だからこそ流れゆく車窓が記憶に残った。現在は列車に乗ってもスマホの画面を見るだけで、旅の印象はどんどん薄いものになっていく。しかしもう昔の旅の様式には戻れない・・・。

2時間の航海を終え、四国・徳島港に着岸。徳島にフェリーで上陸するのは久々である。接続する徳島市バス(YouTubeはこちら)で徳島駅に出て、こちらも久々の乗車となる牟岐線のホームに向かった。

特急うずしお2700系と並んで、ちょこんと待っていたのは1200形単行の阿波海南行き。車内に入ると懐かしい点対称形のシートが並んでいた。すなわちロングシートに座る客の目の前はボックスシートに座る客の横顔というアレである。若かりし頃、青春18きっぷで四国を回った時に、しばしばこれに出くわした。当時の列車は1000形だったが、この1200形は新しい車両と併結できるようにしたバージョンアップ形で、基本的な作りは1000形と変わってないようだ。


たった一駅間の路線ながら四国連絡の重責を担う南海和歌山港線


久々に南海フェリーに乗船。和歌山港を離れる場面と徳島港に着岸する場面を中心に編集

11時30分に徳島駅を発車。しばらく市街地や住宅街を行くが、小松島に近づくにつれて車窓に田畑が目立つようになってきた。ここに来てようやくSpring Tourっぽい様子に触れ、フリートウッド・マックの「愛のジプシー」を聴いてみた。Spring Tourには無くてはならない曲で、私の好きなスティーヴィー・ニックスがメインヴォーカルをとっている。

さて車内は始発駅から立ち客が出る状態。この状態はいつまで続くのかと思っていたら結局阿南駅まで続いた。おまけに阿南駅からは入れ替わりで学校帰りの高校生がわんさと乗車してきた。交換駅ですれ違う列車はほとんどが2両編成なのに、この列車ときたら単行のぎゅうぎゅう詰め。早めに徳島駅で席を確保しておいて良かった。

阿南駅は徳島県南部の中心都市で、徳島駅からの乗客の流れを見ていると、徳島市への通勤圏でもあるらしい。で、その阿南駅で乗ってきた高校生たちも駅ごとに一人降り二人降りしていき、すっかり車内が落ち着いたところで山越えにかかる。特に末端部の牟岐以南は昭和後期に開通した区間で、トンネルと高架線で直線的に結ばれている。全国各地の比較的開通年度が新しいローカル線に共通してみられる特徴で、理由は鉄建公団が造ったからだと中学時代に何かの本で読んだことがある。まぁとにかく建造物だけ見ればミニミニ新幹線である。

トンネルとトンネルの間にちらりと見える里山と、海の風景に癒されながら終点の阿波海南に到着。ちなみに2時間以上に及ぶ牟岐線の車窓は、駅停車の部分とトンネルの部分だけをカットして3本に分けてYouTubeにアップしている(その① その② その③)。興味があったらぜひ見ていただきたい。

阿波海南駅には後ほどDMVに乗って通過するので、駅舎観察もそこそこに牟岐方向に向かって線路沿いを歩き始めた。およそ1キロ先に阿佐海岸鉄道DMVの始発停留所となっている阿波海南文化村がある。徳島市内では一面の曇り空だったが、当地はすっきり晴れ渡っていて気持ちがいい。13時50分過ぎに到着して停留所で待っていると緑色のDMVがやってきた。「これがDMVかぁ」と乗り込もうとしたが、運転手さんが「予約が入ってない」という。どうやら一本前のクルマだったようで、その緑色のDMVの発車を見送った。一日に数えるほどしか運行していないのに、この時間だけ12分の間に立て続けに発車となる、すごいダイヤである。そうこうするうちに私が予約をしている14時14分発のDMVがやって来た。

世界中でここにしかない阿佐海岸鉄道のDMVも、言っちゃ悪いが乗ってみたら普通のマイクロバスである。特にバスモードで走る阿波海南文化村と阿波海南駅の間は、のどかな田園地帯が広がり、浜北コミュニティバスに乗っているみたいだった。ほんの数分で阿波海南駅に着き、いったん客扱いをした後に鉄道モードにモードチェンジ。変換時のショックを感じるのは一瞬で、あとは祭囃子の車内放送が鳴り「フィニッシュ」と結ぶのを待つだけである。

阿波海南駅からは先ほど述べたようなミニミニ新幹線区間を走る。次の海部駅まではDMVを走らせるためにJR牟岐線から阿佐海岸鉄道阿佐東線に移管された全国的に珍しい線区である。海部駅には鉄道用のプラットフォームがあるが、DMVが停車するのはその先の一段下がったホーム。ホームの逆側には使用されなくなったASA-100形の「しおかぜ」号がぽつんと鎮座していた。

次の宍喰駅までは直線が多くトンネルが続く。レールモードの最高速度である60Km/hほどで快走し宍喰駅に到着。終点の宍喰温泉にはこの駅が最寄りだが、モードインターチェンジは阿佐東線終点の甲浦駅にあるので戻るような運行形態になる。宍喰駅を発車直後、右手に使用されなくなった車両が存置されている。廃止された高千穂鉄道から無償譲渡されたASA-300形「たかちほ」号で、世界に誇るDMVを走らせるためとはいえちょっと複雑な思いである。

DMVは県境の第4宍喰トンネルを抜けて高知県へ。安芸郡東洋町に位置する甲浦駅のホームに停車し、今度はバスモードにモードチェンジ。鉄道車両では上り下りできないような下り坂の急カーブを経由して甲浦停留所に停車した。さきほど宍喰で私以外の唯一の乗客が降りていったので、ここではDMVの貸切状態。しっかりと甲浦での一連の動きを観察させてもらった。

バスモードに変わってから海の駅東洋町に停車し、再び徳島県に入り海沿いの国道55号を走って終点の道の駅宍喰温泉に到着。しめて運賃800円。アトラクションとしては安いが、一度乗ればいいかなという感じもする。やはりDMVは乗るよりもモードチェンジ等の様子を眺めるものだなと感じた。


テラスに出て鑑賞した朝日

今夜の宿は、道の駅宍喰温泉の敷地内にある「ホテルリビエラししくい」。ちなみに帰りの高速バスもDMVの停留所と同じ場所から発車するので、クルマで来なくても交通の便が良い。部屋の方は全室オーシャンビューでテラス付き。全国旅行支援を使って1泊2食付きで8,652円。これに加えて2,000円分の地域クーポンを貰えるのでコスパが素晴らしい。ぬるりとした肌触りの温泉も気持ちよく、別に全国旅行支援を使わなくても再訪したいなと感じた。夕食と朝食の内容はYoutubeにアップしているので、よろしければどうぞ。

翌朝は7時44分発の徳島バスEDDY号で出発。始発から終点まで乗り通すと6時間という長距離バスに一部区間だけ乗車。それでも高速舞子までは4時間半の道のりだが、3列シートに加えてシートの作りがいいので快適な旅路だった。こちらのバスについては車窓の様子をダイジェスト風にまとめてYouTubeにアップしているので、よろしければ左の画像からどうぞ。

高速舞子から山陽電車の舞子公園駅に乗り換えをし、あとは山陽~神戸高速~阪神~近鉄と私鉄を乗り継いで名古屋に戻ることになる。少なくとも新大阪から新幹線に乗ればあっという間の距離だが、あえて旅の余韻を楽しむために遠回りして帰ろう・・・

DMVの背景は宿泊したリビエラししくい


オーシャンビューのテラスが付いた部屋


世界にひとつだけ。一度乗ってみたかったDMVを始発から終点まで収録


テラスから見る太平洋の海岸線は素晴らしい


大阪行きの高速バスもホテル隣から発車


全区間乗車すると6時間の昼行高速バス。一部区間の乗車ながらたっぷり楽しめた「EDDY」

<終>

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