Final Destination


Crowne Plaza LAXに連泊

その昔、アメリカ横断ウルトラクイズという番組があった。グァム、ハワイを経由してアメリカ西海岸に上陸し、中西部の都市を訪ねながら東へ向かい、決勝戦はニューヨークだった。最初は十把ひとからげだった素人の回答者も、旅が進むにつれて個性が垣間見えておもしろくなる。また、回答者どうしはライバルであるが、旅を通して友情が芽生えていくということも見逃せない。その個性と友情ドラマがうまくバランスされているのがアルバカーキあたりで、昔からかねがね「ウルトラクイズはアルバカーキが一番面白い」説を唱えてきたわけである。で、どうにかしてアルバカーキに実際に行ってみたい。計画は1年前から進行した。

ANAの特典予約は出発日の355日前から、アメリカン航空の特典予約は出発日の330日前からということで、それぞれの発売日に2月8日と9日のフライト予約を入れた。ほとんど1年前に予約するということで、1年後に自分がどうなっているか予想しなければならない。まぁ当時と境遇が全く変わっていなかったけど…。困ったのはアメリカン航空のフライトスケジュール変更。当初LAX−ABQの直行便往復で、アルバカーキ滞在が6時間くらいあった。ところが、昨年9月ころ突然メールが来て、空港折り返しのスケジュールに変更になった。それでは意味がないので、すったもんだの挙句LAX→ABQ→DFW→LAXに行程を変更。アルバカーキの滞在時間は3時間半に減少、アルバカーキより遠いダラス・フォートワースで乗り継いでロサンゼルスに戻るというウルトラC級のワザでチケットを確保した。


一人で寝るにはもったいないほど広大な部屋


部屋からはLAXへの着陸機がよく見える

2013年2月9日土曜日。アルバカーキ行きAA2603便は9時20分発であるので、余裕を持って7時半過ぎにロサンゼルス空港ターミナル4に到着した。セキュリティチェックも案外スムーズで、出発ラウンジでかなりの時間を過ごすことになった。することもなく、ボケーっと時間が過ぎるのを待つこと1時間、チケットに記載されている搭乗時刻になった。指定されているゲートはバス乗り場。日本の空港なら、チケットをチェックしてからバスに乗るが(つまり、便ごとに乗車するバスが異なる)、しばらく様子をうかがっていると「なんか違うぞ」という感じがしてきた。ゲートの出口でチケットを確認している係の人にチケットを見せると「とにかくこのバスに乗れ」と言う。言われるがままにバスに乗ると、着いたのはアメリカン・イーグル便専用のターミナル。ここにもAからJまでのゲートがあり、面食らった。モニターでAA2603はEゲートから出発することを確認し、まだ「scheduled」(定刻)の状態だったので、再び待ちぼうけの状態となった。

そのうち一人の男性が、Eゲートのドアを開け、外に出て行ったが、「空港の係員かなぁ?」という感じで気にしなかった。というのもEゲート周辺のベンチには、かなりの旅行者が待っており、私同様に「待ちぼうけ」状態だったからである。出発時刻の9時20分を少々過ぎたころ、Eゲートの表示が「AA2603 Albuquerque」から突然スクリーンセイバーに変わった。また、それから数分後、遅延していた隣のFゲートのアスペン行きが搭乗手続きを開始し、今まで仲間だと思っていた「待ちぼうけ」の人たちが、ぞろぞろとアスペン行きに乗り込んでいった。私は、ここにきてようやく「なんか変だ」と思い始めた。出発便のモニターを見ると、既に「AA2603 Albuquerque 9:20」の文字は消えていた。「出ちまったか?」急に口がカラカラに乾いてきた。

とりあえず確認しなければ。まずアスペン行きの搭乗手続きをしていたグランドホステスにチケットを見せて尋ねてみたが「わからない」。ターミナルの出口にいた係員に聞いたら「それならAゲートの人に聞いてみれば」との答え。というわけで、このターミナルにいる人々の中で、最も信頼できそうな係の女性にたどりついた。「アルバカーキ行きが出発したようだけど、チケットの変更できる?」みたいなことを尋ねてみた。すると彼女は「アルバカーキならユナイテッドの12時45分があるわ。それでいい?」と言う。それでは今日中にロサンゼルスに戻ってこれない。「いやいやアメリカンの直行ダラス行きにして欲しい。」すると彼女は「あなたの最終目的地はアルバカーキ?ダラス?」と私に尋ねた。私は臆面もなく「ダラスである」と宣言した。そうして左の画像のチケットを発券してもらったのである。しゃべる方は片言でも、ヒアリングは洋楽好きのおかげでまぁまぁいける。そんな英語力の結晶がこのチケットである。


アルバカーキ便に乗れず、泣きたくなるような思いで発券してもらったDFWへの搭乗券


LAXの出発ロビーでDFW行きを待つ筆者


ダラス滞在3時間ゆえ、タクシーで市街地往復


JFK暗殺の舞台「6th Floor」


デイリープラザのモニュメント

再びバスに乗り、ターミナル4に戻った。ダラス・フォートワース行きを待ちながら、私は後悔の念で一杯だった。とにかく予定通りに空港に着いていながら、目指す便に乗れなかったのは生まれて初めてである。ターミナル4で8時50分までだらだらせずに、さっさとアメリカン・イーグルのリモート・ターミナルに移動していれば、他の乗客の動向に従って普通に搭乗できただろう。またFゲートのアスペン行きが遅延していなければ、Eゲート前は閑散としているはずで、すぐにEゲートのグランドホステスに確認しただろう。また、最後の一人が搭乗ゲートに向かった時にもチャンスはあった。でもできなかったのは、あまりに平和ボケし過ぎていて、日本と同じ感覚で「ファイナルコール」があるだろうと思ってしまったからである。アメリカのローカル都市に飛ぶ小型機は、それこそグレイハウンドみたいなもので、旅客が揃おうがなんだろうが、定刻になればさっさと出発してしまうものである。まぁそれが分かっただけでも、アメリカ本土に2泊3日で来た甲斐があったということである。

まぁそれはそれとして、アルバカーキは諦めて、ダラスで何をするか考えないといけない。アメリカ横断ウルトラクイズならチェックポイントを1つだけ進んだようなものだと思えば気が軽くなる(実際の番組ではアルバカーキ→ダラスとなる行程は無かったが…)。幸運だったのは、半年近く前、フライト変更に伴ってアルバカーキ便が取れなかった時に、目的地の候補としてダラスを検討していたこと。その時にダラスの名所や交通機関をいろいろ調べていたので、大体の感じはつかめている。DFW到着が16時20分で、帰りのAA2477便は19時20分発なので、実質的に使える時間は2時間ちょっと。空港からタクシーでダウンタウンを往復すれば、ダラス市内には1時間程度滞在できそうである。となれば、目的地はケネディ大統領暗殺事件が起きたエルム・ストリートしかない。案外あっさりと結論が出た。

ロサンゼルスから3時間弱のフライトで、ダラス・フォートワース空港に到着。すぐにタクシーを拾ってダウンタウンに向かった。テキサスの陽気な運転手に「ダラスのダウンタウンまで」と行先を告げる。しばらく走ると「ダウンタウンのどこ?」と聞いてくる。暗殺事件の舞台がダラスの駅の近くだったことをうっすら覚えていたので、「ユニオン・ステーション」と言うと、「グレイハウンドの乗り場か?」と聞いてくる。ここでアムトラックの駅だと言えば通じたかもしれないが、私は「うーん」とうなってしまった。口をついて出たのは「ジョン・F・ケネディ、バキューン」だった。運転手は「おー、JFKミュージアムね。OK」てな感じで、なんとか意志は伝えられた。空港から20分ほどで、暗殺事件の舞台に到着した。

ケネディ大統領暗殺事件については、いろいろと疑念を抱かざるを得ないところがあり、そのへんはウィキペディアあたりで調べていただくとして、私は主犯のオズワルドがケネディを撃ったとされるテキサス教科書倉庫ビル6階(現在は「6thフロア・ミュージアム」として暗殺事件の博物館となっている)と、現場のエルム・ストリートを時間が許す限りたんねんに見て回った。この一帯は事件当時から「デイリー・プラザ」という芝生の公園で、当時の映像によく出てくる白いバーゴラも、真犯人が狙撃したとされる「グラシー・ノール」も一望にできる。エルム・ストリートのゆるやかなSカーブも当時のままで、記録映像が記憶の中に甦ってきた。ちょっと感動。タクシー代1万円払ってでも、ここまで来て良かったと思った。


エルム・ストリートより教科書倉庫ビルを臨む


白いパーゴラ。左手は「グラシー・ノール」


ゆるやかにS字を描くエルムストリート


タクシー運転手も???のユニオン・ステーション


BNSFの機関車。当然ながら貨物列車が主力


6thフロアミュージアムのすぐ北側を走るDART


ダラス・フォートワース空港ターミナルCにて筆者


42時間の滞在を終えNH5便でアメリカ脱出


登場から3年。ようやく新Cクラスシートに搭乗


フルフラットかつ隣席とのプライバシーも確保


帰国する開放感で飲みまくり状態


青いイルミネーションが幻想的

ダラスでの短い滞在を終えて、再びタクシーで空港に戻った。帰りのロサンゼルス行きAA2477便は満席。隣には私以上に大きなオッサンが座っており、肘掛を越えて私のスペースまで占領されてしまった。帰りは西向きのためフライト時間は長くなる。トイレを我慢していたのもあって、私は「早くロサンゼルスに着いてしまえ」と何度も願っていた。

翌2月10日は早くも帰国の日。有休を使うことなく、三連休の休みだけでロサンゼルス経由ダラス往復をしたので、味気ないのは承知のうえだ。成田行きの帰国便は、2010年春に登場した新シートの機材。登場以来、この機材に乗りたくて仕方がなかったが、ようやく今日夢が叶う。新シートはファーストクラスはもちろん、ビジネスクラスまでフルフラットシート。なおかつCクラスはどの席からでも通路にアクセスできる「スタッガード・シート」という配列で、適度な囲まれ感がある。はっきりいってこのシートなら、わざわざファーストクラスにする必要が感じられないほどよくできている。この時期なら往復7万マイルで搭乗できるので、私は1年も前からこの日程で予約を入れていたのである。

さて、安定飛行に移るや否や、私は飲みまくった。まずはウェルカム・ドリンクのスパークリングワイン。次にスーパードライ。赤ワインが2種類あったので、同時に2種類持ってきてもらって味比べ。芋焼酎のロックを挟んで、山崎12年のロック、ジャック・ダニエル黒のロック、シーバス12年のロックと来て、再び山崎へ。1時間ほど居眠りした後は、カクテル系に移り、カンパリオレンジ、スクリュー・ドライバーとオレンジジュース系を続けた後、ANAオリジナルジュースの「香るかぼす」とウォッカを1対1で混ぜてもらった。これが結構爽やかで、何杯か飲んでさすがに酔っ払った。12時間のフライトでは、これが目一杯という感じである。もちろん左の画像の通り、フレンチのコースを堪能し、テレビ未放映の映画も2本観た。往復の機内が快適だと、旅の途中でどれだけ哀しいことがあっても、またいつか遠くまで行こうかなと思えてくるから不思議である。


洋食のコースの前に供されたおつまみ


前菜はサーモンのリエット プティサラダ添え


メインは牛フィレ肉のステーキ 和風ソース


デザートはバニラとキャラメルアイスクリーム

<The End>

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