珠 江 デ ル タ を 行 く
〜 広州・澳門・香港 〜

ANAビジネスジェット(広州にて帰りに撮影)


香港、マカオ、広州。これらの都市は、いずれも中国南部の珠江河口に位置する。英国やポルトガルの植民地として、また中国第3の都市として独自の発展をしてきた。香港、マカオが中国の特別行政区となった今、この3都市間の流動人口は爆発的に増大した。そこで私は、この春より名古屋〜広州に就航したANAのビジネスジェットで飛び、この3都市の現状をこの目で確認することにした。

ボーイング737-700ER、いわゆるANAビジネスジェットは、広州に拠点を持つトヨタ自動車とその関連会社のビジネスマンをターゲットに就航した。国内線モノクラス仕様なら約150名のシートを配置できる737-700の機体に、ビジネスクラス24席、エコノミークラス24席、合計48席しか置かず、余裕のある機内が売りである。ビジネスクラスが広いのははもちろん、エコノミークラスも「プレミアムエコノミー」仕様で、2列+2列のたっぷりとした横幅に、国内線のスーパーシートプレミアムと同等の機能とシートピッチを持った座席が配置されている。値段のほうも立派で、往復20万円を超える運賃だったが、さすがにそれでは座席が埋まらないらしく、この日はガラガラ。9月より大幅なディスカウントを行い、成田発と同水準の値段になる。9月以降に広州行きを考えている方は、成田発の狭い767-300のシートよりはこちらを選んだ方が賢明である。

さて、この日のチケットは特典航空券。普段なら中国線は2万マイル必要だが、2割引キャンペーンのため1万6千マイルで発券している。そして前述の通り24席のエコノミーキャビンに、私も含めて4人しかお客がいない。CAさんも手持ち無沙汰らしく、私が飲める客だと分かると、次から次へとビールやらワインやら日本酒やらを勧めてくる。私も期待にこたえて次々にコップを空けていき、飛行機を降りるときにはヨイヨイになっていた。

広州白雲国際空港からは、マカオ境界の珠海市拱北というところまで直行バスで行く。異国のバスはチケットの買い方に戸惑うことが多いが、今回は窓口で筆談をして比較的スムーズに入手することができた。ちなみに珠海までの運賃は80元(約1300円)。155`、2時間半の道のりを考えれば高くない。


ビジネスジェットの機内にて筆者(帰りに撮影)


広州空港発マカオ境界行きバス(帰りに撮影)


広州・マカオ・香港の位置関係

チケットには11時40分発と書かれていたが、実際にバスが空港を出発したのは11時50分頃だった。国際線到着ゲートが始発だったが、国内線ゲートにも立ち寄り、そこでほぼ満席となった。ここで女性車掌から乗客全員にミネラルウォーターが配られ、あとは2時間後の珠海市内までノンストップだった。ろくな荷物置き場もないため、私は自分の荷物を抱え込んでの難行苦行の旅だった。それでも今朝3時半起きで、それまでろくに居眠りもしなかったため、高速道路に入り景色が単調になると、機内の酒も手伝ってウトウトし始めた。

空港を出発して1時間20分後、ようやく広大な広州市を抜けて、孫文の出身地中山市に入り、それからさらに30分で珠海の経済特区ゲートを通過した。14時ごろ珠海市街地のバス停で乗客の半分ほどが下車し、やっと難行から開放された。それからバスは風光明媚な海岸線を走り、14時20分ごろ終点の拱北に到着した。バス〜飛行機〜バスと、浜松から乗り物3つを乗り継いだだけで、マカオの目前までたどり着いたわけである。


マカオとの境界まで約1300円、2時間半

バスターミナルは、これからマカオに行く人とマカオから帰ってきた人が入り乱れて大変な混雑だった。私はこの猥雑な雰囲気をカメラに収め、マカオへのイミグレーション「拱北口岸」へと歩き出した。途中、強引な物売りが道行く人の手を引張っているのを見て、「ああいうのに捕まらないように…」と身を硬くしたが、結局私には一切声が掛からず通過。5分ほどで拱北口岸に到着し、中国風の建物を背景に記念撮影をしようとした。ところが、さっきバックパックに入れたはずのカメラが消えている。おまけに荷物の違うポケットに入れていたmp3プレイヤーも無くなっている。さっき、きっちり閉めたはずのバックパックのファスナーが開いていたので、バスターミナルからここまで歩いている間にスリに遭ったのだ。混乱極まりないバスターミナルで、これ見よがしにカメラを使い、その場でカメラの在り処を晒してしまった自分のミスだった。一気にテンションが下がったが、それでも旅は続けねばならない…


大陸側のマカオへのイミグレ・拱北口岸


グランビューホテルの部屋から競馬場の眺め

澳 門 賽 馬 
どんな旅にも必ず持ち歩いていたデジカメとmp3プレイヤーというアイテムを、旅の序盤に失ったショックは大きく、これからどのようにして旅を続けようかと途方に暮れた。mp3プレイヤーは我慢が利くが、ホームページに旅の模様を掲載する都合上、カメラは必須アイテムである。使い捨てカメラを購入し、家に帰ってからプリントして、それをスキャナーにかけようかとも考えた。そこまで考えて、はたと気づいた。「私には携帯電話がある。」 中部国際空港で電源を切ってしまうと、日本に再入国するまで全く使い道がないと思っていた携帯電話だが、2メガピクセルの立派なデジカメ機能を持っている。ここからは携帯にデジカメ役をしてもらうことにした。考えてみれば、旅の終盤にカメラを失うとやり直しが利かないが、ここからなら十分挽回可能である。ちょっと考え方が前向きになってきた…。

既に中国とマカオの間には国境がないが、依然としてパスポートコントロールが存在する。シンガポールとマレーシアの間で、一度だけ鉄道による国境越えを経験しているが、徒歩によるイミグレーション通過はもちろん初めてのことである。中国の出国審査は長蛇の列で、30分くらい並んだ。これ以上、大事なものを盗まれたら大変と、並んでいる人全員がドロボウに見えてしまう。出国手続きに比べれば、マカオの入国手続きは簡単なもので、ほぼフリーパスでマカオ入りした。

タイパ島行きの路線バスに乗車し、30分ほどでグランビューホテルに着いた。ラスベガス風のカジノが続々とオープンする中で、わざわざ交通の便が悪いタイパ島の宿を予約したのは、競馬観戦するためである。グランビューホテルは競馬場の向かい側に建っており、部屋の窓からは競馬場が一望できた。今日は金曜日ということでナイターで競馬が開催される。第1レースの発走は18時30分。時間に余裕があり、少し部屋で休んでから出掛けることにした。

マカオ・ジョッキー・クラブ正面玄関


入場料20HK$で快適な観戦に


マカオジョッキークラブ(澳門賽馬会)は、香港と違い夏場の7〜8月も開催される。エアコンのない1階の観覧席は入場無料らしいが、いくら昼間より涼しいとはいっても、熱帯の夜をエアコンなしで過ごすのは辛い。というわけで20HK$(約320円)を支払って2階スタンドの入場券を購入した。競馬を予想するには、まず競馬新聞を入手せねばならない。場内で売っているものと思い入場したが、入手できたのは無料配布の出馬表だけ(多少予想らしきものは載っていたが)。これではいかんと思い、いったん競馬場を出て、向かいのコンビニに走り、30HK$で冊子タイプの競馬新聞を入手した。

海外の競馬は香港で2回、シンガポールとソウルで1回ずつ経験しており、今回のマカオで4ヶ国5回目である。外国で競馬予想をする時にいつも困るのは、新聞を読み解くのに骨が折れること。前走の着順やタイム等は簡単に分かるが、クラス分けがどうなっているのかとか、展開がどうだったのかなどは、まるで分からない。もっとも、この競馬場に来ている人で、そんなことにこだわっているのは、ほんの一握りで、多くの人は新聞の著名な予想屋さんの言うとおりに馬券を買っている模様である。それは、馬連や3連単よりも、単勝馬券の発売枚数が多いことでも分かる。

タイパ競馬場は右回りで、外側に芝コース、内側にダートコースという形態。おそらく芝コースは1周1600bほど、ダートは1400bほどで、JRAの福島や小倉競馬場にそっくりである。ただし、第1コーナー横にダートの引き込み線があり、第2コーナーに向けて芝コースをダートコースが横切っている。つまり芝コースにもダート部分があり、日本の馬が走るときっと戸惑うだろう。今日はダートコースだけを使ってレースが開催される。まもなく18時半。第1レースの発走である。

馬券の投票はマークカードで、塗り方は香港とまったく一緒。最低投票単位は10HK$で、これも香港と共通である。賭け式は単勝、複勝、馬連、ワイド、3連単である。1レースめは前走の着順のいい馬を中心に、馬連流しで10HK$ずつ3点購入した。


マカオ・タイパ競馬場のゴール前の様子

澳門賽馬 収支表(単位;HK$)
レース 投資 回収 収支 累計
1R 30 0 -30 -30
3R 80 0 -80 -110
4R 60 0 -60 -170
5R 100 0 -100 -270
6R 150 0 -150 -420
7R 30 0 -30 -450
8R 40 0 -40 -490
合計 490 0 -490 ヘ(´o`)ヘ

熱帯の夜はやっぱりナイター競馬

第1レースは1600bでスタート位置はスタンド前。まだ明るいコースを1周して競走馬たちが次々とゴール。馬券はかすりもしなかった。第2レースはドッグレース。競馬場を犬が走るわけはなく、マカオ北部のドッグレース場の模様がターフビジョンに映し出された。

続く第3レースを検討しようと、新聞をじっくりみていると騎手欄に「岡部誠」という日本人らしき名前を見つけた。そういえば6月ごろ公営・名古屋の岡部誠騎手が、マカオの重賞を勝ったというニュースを目にした覚えがある。「まだこっちで頑張っているんだ」と今日の騎乗馬をチェックすると、第1レースで2着に入った馬に騎乗していた。「あいたた」と思い、3レースめは彼の騎乗する馬から、抜けのないように8頭に流すことにした。前走が1着だからかなり期待が持てる…。レースの方は岡部騎乗の「Fox Face」が2〜3番手のいい位置につけるも、直線で伸び脚を欠き8着。またハズレである。

今回は行けなかったサンズカジノ


マカオ・フェリーターミナルを裏側から眺める


4レースめを検討するあたりで、ようやくクラスとハンデの関係が分かり、今度は冷静にデータ勝負で行くことにする。検討の結果、この馬なら3着に来るだろうと思ったワイド馬券の軸馬が4着。いいところまで行くが、結果が伴わない。これまでの3レースは、流し馬券で失敗してきているため、第5レースは馬連の5頭ボックス10点買いをしてみたが、これもハズレ。所持金は徐々に減りつつあった。

第6レースはとにかく当てなくてはと、気になった馬を全てピックアップ。いわゆる投網方式の馬連6頭ボックス15点の馬券である。12頭立てのうち、有力と思われる半分の馬をボックスで買えば、たとえガミっても当たりそうなものだが、カメラとmp3プレイヤーをスリに遭った今日の運気は最悪らしく、これでも当たらなかった。ついに香港ドルの所持金は100ドルを切ってしまった。

こうなると、もう撤退の時期を考えるべきで、今夜開催されるレースの中で最もクラスの高い(つまりメインレースの)第8レースまでにすることにした。第7レース、第8レースと30〜40HK$の投資。日本円では500〜600円のわびしくなるような馬券の買い方でレースを見守ったが、見所なく敗退。15点買っても当たらなかったものが、たった3〜4点で当てようというのもムシのいい話である。完全なオケラ状態となってタイパ競馬場を後にした。


マカオ・香港はターボジェット(フェリー)で1時間

香港ドルが底をついたため、両替を兼ねてホテルのカジノに行った。運気は最悪だと分かっていながら、カジノが最も両替レートがいいという定説を信じての行動である。しかし、カジノのチェンジャーでは日本円を拒否され、ホテルのフロントへ行けという。ホテルのフロントのレートの悪さも、また定説である。結局、ロビーのATMで500HK$だけキャッシングして、再びカジノに舞い戻った。

グランビューホテルのカジノは、私が得意としているブラックジャックのテーブルはなく、バカラがほとんどだった。中国人相手のバカラでは、500HK$なんて一瞬で無くなると思い、おとなしくスロットでお茶を濁した。最初は300HK$ほど浮いたものの、「なんとか競馬で負けた分を取り返そう」とガメっていると、結局みるみるコインが吸い込まれていった。明日の香港での電車代だけ残して、すごすごとカジノから撤退した。

インターコンチネンタルで摩天楼を眺める


広州への玄関口・KCRホンハム駅


翌朝は8時15分に出発するホテルの無料シャトルバスでスタート。南シナ海に面したフレンドシップ・ブリッジにかかると、一昨年の夏に香港から通いつめたサンズカジノが見えた。「サンズでブラックジャックをやっていれば、こんなひもじい旅行にならなかったかも…」と思ったが、昨夜の運気ではそれも怪しい。フェリーターミナルで降ろしてもらい、9時発の香港行きターボジェット(フェリー)のチケットを購入した。広州から珠海(マカオ)へのバスや、香港から広州への鉄道に比べれば、マカオ・香港間のターボジェットは乗り慣れている分だけ気が楽である。1時間の船旅を快適に過ごし、10時過ぎに香港のイミグレーションを通過した。

フェリーターミナル最寄の上環駅から尖沙咀駅までMTR(地下鉄)で移動し、KCR(九廣鉄路)の東尖駅まで長い地下道を歩く。広州への直通列車はひとつ先のホンハム駅が始発で、日本で予約したeチケットには「出発45分前までに来るように」となっている。まだ11時前。列車の出発まで2時間半もある。今回、香港は単なるトランジットだが、少しでも香港らしい雰囲気を味わいたい。私は、汗をしたたらせながらインターコンチネンタルホテルへの道を歩いた。

インターコンチネンタルのロビーラウンジで、香港島の摩天楼を眺めながらビールを飲むと、今までのイヤな事が都会の喧騒とともに消えていった。香港は長く英国の植民地だったこともあり、珠江デルタの3都市の中では最も洗練された街だとの思いを強くした一瞬だった。

香港(九龍)と広州はKCRの高速列車で2時間


九廣鉄路のホンハム駅には、予定通り12時20分頃着いた。広州への直通列車は、あたかも飛行機に乗るようなシステムで運営されており、鉄道の出札窓口にありがちな長蛇の列、ガラス越しの職員とのやりとりといったものとは無縁だった。オープンカウンターにeチケットを見せると、クレジットカードを求められ、スムーズにキップが発券された。改札の時間になると、駅員に改札口でキップにハサミを入れられるものの、手荷物のX線チェック、パスポートコントロールと進み、一般客とは隔離された待合室で乗車を待つことになった。飛行機の搭乗そのものである。

免税店で時間をつぶしていると、ほどなく乗車時間になり、地下ホームから指定された車両に乗り込んだ。特等車を予約しており、車内は1列+2列のシートでゆったりしている。2階建て車両の階上をあてがわれたため、眺めが非常によろしい。ただ、全ての座席が前向きではないため、指定された座席によっては後ろ向きに座ることになる。私が指定された座席は、車端部のテーブル付きのクロスシートで、進行方向と逆向きの座席だった。さっそく向かいのオバさんに「席を替わってよ」と交渉するが、首を横に振って目を閉じてしまった。「なんだケチ」と思っていると、その一部始終を見ていた車掌さんが、「ここが空いているよ」と前向きのシートに案内してくれた。ありがとう車掌さん、これで2時間の列車の旅が快適になるよ…

香港と広州を直通する九廣鉄路城際(Intercity)列車は、中国側と香港側でそれぞれ車両を持ち相互乗り入れをしている。最速列車は中国車両の「新時速」だが、快適なのは香港車両の「九廣通(KTT)」と言われている。今回はそのKTTに乗車したが、キャセイ航空を参考にしたといわれる接客サービスはなかなかのものである。特等車はソフトドリンクのサービスがあるが、コップが空になったことに気づくと、すぐに乗務員が「おかわりいかが?」と聞いてくる。


高速列車KTT(九廣通)の特等車の様子


特等車は1列+2列のシートでゆったり


KTTの車端は両方とも機関車(広州東駅にて)


巨大な駅だが人気のない広州東駅バスだまり


ホリデイイン・シティセンター広州


部屋からは緑豊かな広州の街が見渡せた


いろいろあって振り出しの広州白雲空港へ

中国との境界駅である羅湖までは、KCRの近郊電車に阻まれてゆっくりと走っていたKTTも、中国に入ると実力どおりの走りを発揮する。すれ違う緑の列車のサボには「北京」「上海」といった地名が書かれ、ここに来てようやく「中国の旅」を実感した。のどかな田園地帯を走り抜け、香港から174`の広州東駅に定刻に到着した。所要時間は1時間48分で表定速度は97`。在来線を走り、香港側のノロノロ運転を思えばかなりのものである。

さて、今夜の宿はホリデイイン・シティセンター広州を予約しているが、駅の到着ゲートで無料シャトルバスの案内を見つけ、労せずしてホテルにチェックイン。朝食代・サービス料込みで約1万円の部屋にしては広々としており、あまりの快適さと、これまでの心労のため、もう部屋から出る気力がなくなってしまった。「金もないし、夕飯はコンビニに買出しに行けばいいや…」
<おしまい>

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