亜 細 亜 鉄 路 事 情


駅に思えぬウォンウェンヤイ駅入口


☆タイ国鉄マハーチャイ線
2005年一発目の旅行は、昨年と同様バンコクとなった。2年連続で同じ時期に同じ場所へ、会社の同僚と行くのも芸がないが、昨年乗り残したバンコク近郊の鉄道に乗れるからと思いツアーに参加した。昨年乗り残した路線の名前は「マハーチャイ線」&「メークロン線」。バンコク市の南西に伸びるタイ国鉄の路線である。タイ国鉄の中央駅はフアラポーン駅で、ここは列車がひっきりなしに発着するターミナル駅であるが、マハーチャイ線の始発駅はそこから離れたウォンウェンヤイ駅で、バンコク市内を流れるチャオプラヤ川の対岸にある。バンコクツアーの2日目の午前がフリータイムだったので、その時間を利用してマハーチャイまで往復することにした。

1月30日(日)朝7時半、ホテルの3人部屋を抜け出し、通りに出た途端に、トゥクトゥクの運転手に日本語で纏わりつかれた。試しに「ウォンウェンヤイ駅まで行けるか」と訊いたところ、仲間のタクシーの運転手を紹介された。100バーツ(約270円)で行くという。少々高いかもしれないが時間がないので商談成立。すぐさまタクシーに乗り込んだ。


出札口ひとつ、改札口なしのウォンウェイヤイ駅


ウォンウェイヤイ駅は1面1線の簡素な作り


ホーム上には屋台が並んでいた

フアラポーン駅近くのホテルから15分くらい走ってタクシーは停まった。運転手の指差す方向がウォンウェイヤイ駅のようだが、商店街の入口のようで、「もっと近くまで行ってくれればいいのに」と思いつつ、その「商店街の入口」のゲートをくぐった。屋台と露店の中間のような店を左右に見ながら奥に少し進むと、列車が見えた。私が今まで歩いてきた道は、ホームに向かうコンコースだったことに気付いた。列車の手前に出札窓口らしきものがあったので、マハーチャイまでの切符を買った。約1時間の距離にあるマハーチャイ線の終点までの切符代は10バーツ(約27円)。タダみたいな値段である。


マハーチャイ駅に到着。車輌基地になっていた


マハーチャイ駅舎の前にはバイクがズラリ

しばらくホームをぶらついて、これから乗車するディーゼルカーを撮影したりしていたが、なにせ1面1線の簡素な作りの駅であるので、すぐにやることがなくなった。仕方なく列車に乗り込んだが、エアコンなどついていないので、走り出すまでは蒸し風呂のようだった。

定刻の8時35分になると、列車は合図も無く走り出した。ドアは開けっ放しなので、動き出してからでも飛び乗れるけれど…。しばらくは路地裏の住宅街を走っていたが、そのうちに車窓に緑が増え出して、爽快な列車の旅となった。バンコク南西部は塩田が多く、そこを吹き渡ってくる風が心地よかった。定刻の9時28分に遅れること1〜2分。約1時間かけてマハーチャイ駅に到着した。表定速度は、ざっと30〜40`といったところだろう。

線路のすぐ脇まで露店が並ぶ


のどかなメークロン線バンレアム駅


マハーチャイ駅は、この路線の車輌基地も兼ねていて、車庫には何台もディーゼルカーが並んでいた。しかし単線のこの路線では、これ以上本数を増やすことはできないだろうし、増結用の車輌としてしか使えないんじゃないかと思った。

さてマハーチャイ駅を一歩出ると、通りの両側には露店市場が並び、クルマとバイクと通行人が交じり合って、大混雑だった。そういえば何かの本で「マハーチャイ駅は市場の中に駅があるようなもの」と読んだことがある。その通り、線路のすぐ脇まで露店が並び、列車が通行するときだけ商品を撤収し、傘を畳むという状態だった。相当エネルギッシュな町と駅である。


まだ薄暗いビル街を走るMRT木棚線


春節の慶賀ムード漂う台北駅にて筆者

ウォンウェイヤイ行きの折り返し時間を利用して、マハーチャイから川を挟んだ向こう側のバンレアム駅に渡ってみた。こちらは、マハーチャイとは対照的な静かな駅で、夏の昼下がりのような時の流れだった。本当はここから終点のメークロンまで行ってみたかったが、半日のフリータイムではそれはかなわず、マハーチャイ10時40分発のウォンウェイヤイ行き列車でバンコクに戻った。団体旅行の中の一瞬の個人旅行だった。

☆春節休暇中の台湾鉄路
バンコクから戻ったのが2月2日。それから中8日で今度は台湾に旅立った。2月11日からの3連休を利用して、春節の台湾を楽しんでこようという算段である。

台北駅の正面玄関だと思われる南口


窓口上に掲げられた時刻表を見上げる人々

ただ、全て自ら手配しないといけない旅行ゆえ、特に台湾での列車の指定席がなかなか取れなくて難渋した。ヒマさえあれば台湾鉄路(国鉄)のウェブサイトを覗いて、1週間くらい経ってようやく空席にありついた。ちょうど春節休暇のUターンラッシュがピークになる日の切符だったのである。

2月12日(土)、少し早めにホテルを出発してMRT(モノレール)の南京東路駅に向かった。朝から雨模様で、まだ薄暗い。MRT木棚線を一駅乗車して、忠孝復興駅で地下鉄(MRT板南線)に乗り換え、台北車站(台北駅)に到着した。台北駅は地下駅で、東西南北すべてに出入口がある。東西に線路が走っていることを考えると、どうやら南口が正面らしく、ここだけ路線バスの停留所があった。コンコースに入ると、出札窓口の上には、電動でパタパタ動く大きな時刻表が掲げられていて、空港のような雰囲気だった。


復興105号が台北駅に入線


竹南駅・ここから海線と山線に分かれる


鉛色の海岸線を進む


簡易リクライニングシートが並ぶ復興号車内


立春を過ぎたばかりなのに田植えが済んでいた

「網路」(インターネット)と示されている窓口に行き、切符と交換してもらった。往路の復興号は、台北〜彰化の切符代が268元(約880円)、復路の自強号は、彰化〜松山(台北の1駅外側)間が430元(約1410円)と、約180`の距離を考えると格安である。既に日本でカード決済しているので、パスポートと予約番号が印刷された紙を見せるだけで、切符を受け取れる。便利なものである。

定刻の9時12分に4分ほど遅れて、復興105号は台北駅を発車した。しばらくは台北市の地下を走るため車窓は望めない。車内は簡易リクライニングシートが並び、電気機関車が先頭に立つ客車列車ということもあって、日本の14系客車に乗っているような錯覚に陥る。Uターンラッシュとは逆方向ではあるが、座席はほぼ埋まり、立ち客もちらほらしている。さすがに春節休暇中の土曜日だけのことはある。日本で座席を確保しておいて良かったと思った。


復興号の先頭に立つ電機


3時間ちょっとかけて彰化駅に到着


彰化駅舎・気温は日本の初夏並みの21℃


切り妻・貫通扉で特急らしくない電車の自強号


日本の在来線グリーン車並みの座席

復興号は、日本でいうと急行か準急という位置づけで、特急が停まらないような小さな駅にも丹念に停まっていく。そのため、10時35分ころ湖口という駅で、後続の自強号に抜かれてしまった。まぁ急ぐ旅でもないのでゆったり構えていたが…。台北と彰化の中間を過ぎた竹南という駅から、列車は山線と分かれて海線へと進む。ほとんどの優等列車が、線形の良い山線を経由するなか、この復興号は海線を経由する貴重な優等列車である。ほどなく鉛色の海が見えてきた・・・

まぁ海線といっても海が見えるのはちょっとだけで、清水という駅を過ぎると田園地帯が広がった。台湾有数の都市のひとつである台中市の郊外で、台北に比べるとかなり暖かいらしく、田んぼでは既に田植えが終わっていた。毎年恒例の「Spring Tour」の海外バージョンとしてここまで来たが、立春をすぎたばかりなのに、初夏の雰囲気である。mp3プレイヤーから流れるフリートウッド・マックの「愛のジプシー」が耳に心地よかった。


夕暮れの松山駅に到着。おつかれさま

台北発車時点で4分だった遅れが15分に広がって、12時40分ころ、ようやく彰化駅に到着した。海線と山線が合流する駅で、米原のように「鉄道だけで他になんにもないところ」というイメージを持ってここまで来たが、意外にも駅頭は活気があった。ちょうど昼食時で、歩道までテーブルやイスを置いた、屋台もどきの食堂の多いこと。メニューは漢字で、何が出てくるのか見当も付かないが、○○麺で30〜50元(約100〜170円)と激安だった。

約1時間のインターバルの後、今度は山線経由の自強号に乗車する。彰化始発の自強1018号で、発車時刻は13時45分である。自強号にはTGVに似た流線型のタイプ(両端の電気機関車でプッシュプル運転をする)と動力分散型の電車タイプの2つがあるが、これは電車の方である。切り妻貫通扉付きで、ちょっと最優等列車っぽくないのがいただけない。ただ、車内に入ってしまえば、フットレスト付きのリクライニングシートで、ちょうど日本の在来線特急のグリーン車を思わせる作りである。

彰化駅を発車し、台中駅の手前で、建設中の台湾新幹線をアンダークロスした。開業したら、また乗りに来たいものである。台中の次の豊原駅までは晴れていて、車窓が楽しめたが、山深くなるにつれて霧がかかり始め、最後は何も見えなくなってきた。おまけに停まる駅、停まる駅で大量の立ち客を飲み込み、シートに監禁状態となってしまった。これでは鉄道旅行を楽めるムードではない。最終的に乗車率200%くらいで台北駅に到着して、乗客全員一様に疲れきった表情だった。始発時点で定時だったが、台北では20分遅れ。ようやく台北で混雑から開放されても、私は次の松山駅で降りる段取りである。やっぱり大型連休には旅行すべきでないことを、台湾の地で思い知った。おつかれさまでした〜。
<おしまい>

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