九 州 豪 遊
本革座席のスターフライヤーで北九州空港へ

かつて「九州豪遊券」という企画きっぷがあった。JR九州の特急・急行のグリーン車が3日間乗り放題という豪勢なきっぷだが、値段は2万円ちょっとということで、かなり太っ腹な商品だった。私も食指を動かされたが、当時の私は生粋の18きっぱーであり、特急のグリーン車よりも50系客車のボックスシートを愛しており、結局利用することはなかった。その後2003年に発売停止となった「九州豪遊券」は、今年初めに「ハッピーバースデイ九州パス」と名前を新たにして復活した。「ハッピーバースデイ」という名前からも分かるように、利用は誕生月限定となったが、3日間で6回まで指定席券を発見可能なグリーン車乗り放題のきっぷである。値段は2万円ぽっきり。さっそく誕生日を絡めて九州豪遊の予定を立てた。

当初の計画では九州一周をする予定だったが、列車に一日中乗りっぱなしのうえに、毎日早朝にチェックアウトし深夜にチェックインする旅程に嫌気がした。そこで、本当に乗りたい列車だけを絞り込み、その結果787系のDXグリーン車、A列車で行こう号、ゆふいんの森号をメインにした旅程に変更した。というわけで、12月20日(金)の仕事を終えた後、羽田から北九州空港へANAコードシェアのスターフライヤー便で飛んだ。北九州空港は初訪問であったが、到着が真夜中のうえに定刻より遅れたため、空港連絡バスが待ってくれているのかどうかが気になり(この便が終バスである)、空港内を一瞥もしないままバスに飛び乗った。結果ロクな画像が撮れず、右の画像はバスの車内から撮影した一番マシなテークである。


8枚の切符を発券し九州豪遊

小倉のホテルにチェックインしたのは午前1時過ぎ。翌朝10時のチェックアウトまで死んだように眠り、かなりすっきりした状態で小倉駅に向かった。小倉駅の出札窓口で、さっそくバースデイパスを購入。同時に6枚の指定券を発券してもらった。ところが、22日の「ゆふいんの森3号」が満席で、ああだこうだやりとりをしているうちに、由布院で席を替われば博多→別府の全区間の指定が取れることが判明。本来なら指定券発券の限度は6枚だが、特例で7枚発券してもらい、バースデイパス本体と合わせて8枚の切符を持って旅を開始した。

最初の列車は博多行きの「きらめき7号」。わずか50分の乗車なので自由席に座った。窓の外は雨。玄界灘は日本海なので、冬型が強まるこの時期は、概して雲が低く垂れこめる。博多で九州新幹線に乗り継ぎ。新八代〜鹿児島中央間の部分開業時に乗車して以来の800系乗車で、こちらも迷わず自由席に座った。博多→熊本の短区間列車であるため、自由席もガラガラの状態だった。

熊本からは今回の旅の目的のひとつである「A列車で行こう」に乗車。終点の三角から天草行きの船に接続しており、A列車のAは「天草」の頭文字でもある。天草では9月に第1回世界サンタクロース会議が開催され、歴史的にもクリスマスを盛大に祝っている土地柄である。というわけで2両編成のA列車にもサンタクロースが乗車。クイズ大会を盛り上げたり、記念撮影に応じたりと八面六臂の活躍だった。そういえばA列車の内装も天草の教会をモチーフにしているので、サンタクロースが良く似合う。クリスマスシーズンのこの時期に乗車して正解だった。


ゲーム大会でゲットした賞品


最初の列車は小倉→博多のきらめき7号で


博多⇔熊本の往復で久々に800系乗車


熊本駅にて特急「A列車で行こう」と筆者


A列車のバーカウンター。装飾が教会っぽい


数日後はクリスマス。車内にはサンタクロース


三角屋根の上に十字架。天草の玄関三角駅

終点の三角に到着後は、折り返しのA列車まで微妙に空き時間があった。福岡での悪天候が嘘のように晴れあがり、気分がいいので三角港を中心に散策。海を挟んだ向かい側には天草諸島が逆光に輝いていた。こういう景色を眺めていると、たまには九州の旅もいいもんだと思う。しばらくたたずんだ後、駅に戻り再びA列車に乗車。熊本で新幹線に乗り継ぎ、今日2回目の博多駅へと向かった。

土砂降りの博多駅を、佐世保行き特急みどり17号で脱出。発券してもらった3枚目の指定券を使用してグリーン車に乗車した。翌日の佐世保→博多間は787系のDXグリーン車を予定しているので、変化を付けるために783系ハイパーサルーンのグリーン車に乗車。かつて特急有明号が非電化の豊肥線水前寺駅まで乗り入れていた頃に、一度だけ乗車したグリーン車。当時はシートテレビまで付いていて超豪華仕様だった印象が強いが、さすがに20年以上経過した現在では陳腐化してしまった面も否めない。それでも1列+2列のゆったりとした座席はそのままで、佐世保までの2時間弱を気持ちよく過ごせた。佐世保に着くころにはすっかり雲が取れ、天気の移り変わりについていけない感じ。17時半頃佐世保ワシントンホテルにチェックイン。浜松では真っ暗な時刻だが、当地では日没直後でまだまだ明るい。さすがに本土最西端の地である。

翌日は誕生日である12月22日。さすがに47歳なので誕生日が嬉しいなどということはないが、普段からいろいろな書類に書き馴れている日なので特別感はある。その特別な日に乗車する一番手は787系のDXグリーン車。もともとグリーン個室(トップキャビン)があった場所に1列+2列のシートを設置しているため、空間のパーソナル感がハンパでない。しかもかつて6席あった場所に3席だけ設置しているので空間に余裕がある。そこに深々とリクライニングするシートを設置しているので、極限までリクライニングすると居眠りに最適なシートになる。この日は佐世保8時08分発と比較的早い出発だったので、長崎線と合流する肥前山口までたっぷり1時間ほど居眠りしてしまった。目覚めると窓の外は土砂降りになっており、「ここは一体どこ?」的な寝台車で目覚めた時のような感覚に陥った。その後は車窓を見ながらゆっくりと過ごし、快晴の博多駅に10時少し前に到着した。

次に乗車する「ゆふいんの森3号」は発券時の経緯から満席なのが確実である。ビュッフェを連結しているが、身動きが取れない状態を想定し、少し小腹を満たしておこうと思った。そんな時にはホームの立ち食いソバが最適である。博多駅ホームには博多ラーメンとかしわうどんの2種類の立ち食いスタンドがあり、私は後者をチョイスした。鶏肉の油が汁にコクを加えていてかなり旨かった。さて腹を満たしたところで、いよいよ「ゆふいんの森」に乗り込む。1989年に運行を開始して以来、何度も乗車するチャンスはあったが、観光列車ということで自分には敷居が高く、結局47歳の誕生日の今日まで乗れずにいた列車である。まぁこの歳になるとこだわりがなくなって、そんな敷居はとうに無くなっていたのであるが…。指定された席に着くと、まわりには案の定若いカップルが多く、あとは家族連れか婦人のグループといったところで、男性一人旅風の乗客は私と、私の隣の窓側にいる中年の男性くらいなものである。こういうシートアサイメントだと、中年の男性二人連れに見えそうで、アカの他人のオッサンと私が「あの人たちゲイかしら?」とかささやかれているんじゃないかとヒヤヒヤする。まぁこれは自意識過剰で、実際はそれぞれのカップル、家族、グループ客がそれぞれの世界に入っていて、他のお客のことなんかお構いなしなのである。


三角港から天草諸島を遠く望む


ハイパーサルーンで佐世保に着き1日目終了


佐世保ワシントンホテルから望む朝焼け


3連アーチが印象的な朝の佐世保駅舎


DXグリーン車に体験乗車


高級感のあるグリーン車入口


博多駅ホームのかしわうどん

さて、冬至冬中冬はじめというが、当地九州では冬至にしては南中高度が高いため、早春の雰囲気を醸し出している。学生時代に初めて九州に足を踏み入れて以来、春先に九州を旅することが多かったが、ゆふいんの森の車窓を眺めていると、どうもその頃の旅を思い出してしまう。その時に聞いていた音楽はT-スクエアの「宝島」。私のSpring Tourのテーマ曲である。少し早い春を感じていると、一転、由布院の手前では雪景色。温暖な九州でこの冬初めての雪景色を見ることになるとは思いもしなかった。

博多を出発して2時間あまり。そろそろ満席の車両に辟易としてきたころ、ようやく由布院に到着。列車名のとおり、ここで3分の2以上の乗客が入れ替わる。下車した人数に比べて乗車してきた人数の方が圧倒的に少ないため、ようやく車内に余裕ができてほっとする。予定通り、自分もここで座席を移り、窓側座席に座る。通路側は空席で、別府までの1時間はようやく腰を落ち着けて酒を飲めそうである。そんなときに限って事件は起こるもので、由布院を発車して十数分後、突然「右をご覧ください。ななつ星が停車しております」というアナウンスが入った。あわててカメラを取り出して最後尾の展望席通路へ急いだ。ほろ酔い状態であったが、なんとか「ななつ星」の撮影に成功。実車を見た感想は一言「本当に走っているんだ」だった。

この日の宿泊地である大分をスルーして、終点の別府まで乗り通す。大分と別府の間は、ご存じのとおり別府湾が広がる車窓に定評があるところで、最後は最後尾の展望席を独り占めして、その眺望を見入っていた。

13時35分に終点の別府に到着。温泉にはあまり興味がないので、そのまま下りホームに移動して、特急ソニック号で大分へ逆戻り。14時過ぎには今宵の宿である大分アリストンホテルにチェックインした。誕生日にチェックインすると1泊850円という嘘のような値段なので期待はしていなかったが、複数のレストランとバンケットルームを持つシティホテルで、客室も居心地が良かった。早めにチェックインしたおかげで、当日開催された有馬記念も部屋のテレビで見ることができ、今後語り継がれるであろうオルフェーブルの8馬身差の圧勝をLIVEで観られることができて本当に良かった。


この冬初の雪景色は九州で


1泊850円の大分アリストンホテル


8両編成787系「みどり」から2日目が始まる


DXグリーン車のシート。かなり深く倒れる


バルーンフェスタの地・佐賀らしい車窓


意外にも初めての「ゆふいんの森」乗車


発車直後から賑わったバーカウンター


サロンカーもご覧のとおりの賑わい様だった


誕生日乗車の記念に制帽をかぶって撮影


話題の「ななつ星」だが実車は初めて見た


博多発車から3時間10分。ようやく別府到着


九州豪遊の最後の列車は「白いソニック」


本革のグリーン席の前方に運転席が見える

結局、ホテルでは翌朝10時のチェックアウトまで20時間も過ごした。返す返すも850円でこんな待遇を受けて申し訳ないような感じだった。大分駅に戻り、最終日がスタート。この日は、がつがつせずに1本の列車に乗車するだけである。その列車は別名「白いソニック」と呼ばれている885系のソニック24号。本革のシートが自慢の列車で、ここで指定券の最後の一枚を投入。ゆったりとしたグリーン席に身をゆだねて、一気に博多まで戻った。小倉からは進行方向が替わり、グリーン車が先頭車となる。885系は先頭車の展望にも気を配っており、振り子機能を生かして豪快にカーブを回る時には、地球が傾いてしまったかのような、驚きの前面展望が繰り広げられた。酒の力も手伝って、大分→博多の2時間はあっという間であった。

13時少し前に博多駅に到着して、3日間のハッピーバースデイパスを利用した九州豪遊が終了。南九州には一歩も足を踏み入れることはなかったが、それでも2万円分のもとは十分取れた。来年度も発売を継続するようなら、来年の12月にも九州を訪れてみたいものである。
<終>

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