1991.1.11 DENSElBU:T.Sakai
「日本を休もう...」、秋晴れの南アルブス
ll月8日(金)
土砂降りの雨の中、コアタイム終了と同時に会社を飛び出し、空きっ腹を抱えて新宿駅へ来てみると、駅のホームは最終の松本行き特急あずさを待つ人で長蛇の列。それでも何とかバラバラながら席を確保し、ビールと駅弁で乾杯。食べ終わると車中の暖かさに誘われ、どっと眠りこけてしまった。今回はいつになく健康的な出発だ。岡谷で乗り換え、駒ケ根駅に到着。いつも通り待合い室で寝ようとすると、「はい、閉めるから出て出て。」と追い出されてしまう。う〜ん、だんだんせちがらくなってきたなあ。しかたなく駅の軒先に寝床を広げる。なんだか、前は単なる友達だった浮浪者そのものになっていくような気がする。
ll月9日(土)
6:00始発電車で伊那大島の駅へ来てみると、あてにしていたタクシーどころか人っこ一人いない。やがて、KlOSKのおぱさんに連絡のつくタクシーの電話番号を教えてもらい、ようやく入山の足が確保できる。7:00、「これまで山で一度も雨に降られなかったことはない!」という寂しい兄さんと相乗りで駅を出発。昨日の雨がうそのように、天高く馬肥える秋晴れである。タクシーの運ちゃんは、「最近だんなが調子悪いから、自分がやってるんだ。」という快活なおぱさんだった。
8:00、寂しい兄さんと別れて、塩川小屋発。フッフッフ、今回もトップなのだ。
川沿いの道をタッタカタッタカ歩き、水無川をすぎて急登に取りかかる。まっ黄色な木々の葉の間を通して秋の日差しが明るく、ここは伊那、信州。思わず「世の中は〜、はあ〜世の中は.・・」とJRのCMソングを口ずさんでしまう。
11:00、晴れてはいても立ち止まるとさすがに冷える季節だなあ、などと語りつつソーセージ、最近高いキューリ、カルピス、パン、ゼリーと豪華な昼飯を食ぺる。
再び歩き始めると、徐々に南アのジャイアンツが頭を出し始める。間の岳、北岳、悪沢岳などは白い化粧を始めているが、甲斐駒、仙丈にはまだ雪は見えない。肝心の塩見もうっすらと雪らしいもの認められるが、持ってきたアイゼンは使わなくて済みそうだ。
12:30,思った以上に早く三伏峠を通り、三伏沢小屋の水場。氷が張ってるよ、寒いなあ。ポリタンを満タンにして、疲れ始めた体に気合いを入れ直してグィグイと歩き始める。
本谷山の手前で、六合自くらいまで真っ白になった富士山が姿を現す。おおっ、あれなら
もうすぐ雪訓ができるぞ。
「もうちょい、もうちょい。」とつぷやいた呪文の甲斐あって、15:15今日の天場、塩見小屋到着。小屋の一部が開放してあり、ありがたく使わせてもらおう。
最後の登りの熱気が冷めないうちに、恒例のビールで乾杯!
目の前にはドーンと塩見岳が控え、見渡せば遼に真っ白な北アルブスから、乗鞍、中央アルプス、そして南アルブスの3000m級の山々の展望。空は抜けるような青空。
ああ〜、極楽極楽。
17:00過ぎ、タ食を作っていると、埼玉から車で来たという女性の単独行者が到着。仲々はっきりと物を言う人であったが、しかしいくら何でも「学生さんですか?」はないよなぁ。聞いてみれぱ、自分と同じ歳であった。
南アルブス・スペシャルのベーコンキャベツスーブの夕食後、酔いつぷれるままに19:30就寝。
ll月10日(日)
夕ぺの残り飯で作った雑炊の朝食を食ぺた後、5:30、暗い中を塩見の頂上めざして出発。星も見えるが、薄い高曇りで風が冷たい。
ひと登りで天狗岩を越え、塩見への最後の登りに取り付く。鎖やハシゴこそないが、雪のついた時来たら仲々恐いよ、ここは。5〜6年前の正月に武部君と来た時も、天狗岩から一人滑って落ちて行ったっけ。怪我で済んで良かったけど。
6:20、寒風吹きすさぷ塩見岳のビーク着。少し曇ってはいるが、どうだ360°の展望だ!9月に福田君と歩いた甲斐駒、仙丈、2年前の年末に3人で攻めた北岳、そして去年の夏、一人で駆け抜けた荒川、赤石から続く南部の山々。
おお、折りよく富士山のそぱから日の出だ。鼻をすすりながら、いつものように「いいことあるように。」とオールマイティの願いをかける。
今回持ってきたカメラにはセルフタイマーが付いていないので、タベ編み出した「時間差セルフタイマー」の秘策を使らて頂上写真を撮り、風の冷気でこわばった顔で再び塩見小屋に戻る。
7:20、パッキングをし直して下山にかかる。樹林に入れぱ顔も融け始め、夜のうちに大きく伸びた霜柱の感触を楽しみながら、本谷山。
塩見の姿を確認するように時々後ろを振り返りながら歩いているうちに9:40.三伏峠小屋。ひと休みした後、いよいよ塩見にも別れを告げ、紅葉の中をテッテコテソテコと下り始める。今にも雪が降り出しそうな、悲しい雲行きになっている。
途中で昼食をとって、11:40,水無川の河原ヘ。ああ、今回の山ももうすぐ終わりだ。さっきまでの雲はいったいどこへ行ったのか、再び秋の陽の光にあふれている。12:30,塩川小屋には誰もおらず、「まあ、これは予定のうちだから。」と奥沢井の部落めざして車道を歩き始める。
来た時と固じ様な快晴、見渡せば回りは紅葉に囲まれ、人気もなく、日差しは優しい。「世の中は〜、はあ〜世の中は.・・」と再び原由子の唄声が頭の中をかすめていく。
奥沢井の集落にも人気はなく、車も呼べないので、さらにテクテクと歩いていると、タベ小屋でいっしょだった女性単独の人が後ろから車で迫い付いてくれた。
伊那大島の駅まで送ってもらい、今回の「日本を体もう」秋晴れ山行も終了となった。
※
会社へ入って7年半、この間山へ行っていた日数はたぷん300日を越えることでしょう。こんな歳月まで、こんなふうに山にいっしょに行ける仲間に恵まれたことに本当に感謝したい気持ちです。
そして今回も、リーダーのおかげで素晴らしい山行で締めくくることができました。さて自分は、何を患ったのかこんなに楽しい山にも、しばしの間別れを告げることとなりました。皆さんにもお会い出来なくなってしまいますが、酒でも飲んだ時には、酒グセの悪
い男がいっしょに山に登っていたことがあったことを、ほんの少しでも患い出してもらえたら嬉しいです。
それでは皆さん、いつかまたどこかの青空の下でお会いしましょう。