田中先生講演要旨

田中智生先生講演要旨


 2001年11月18日岡山D&Lスクールと発達・学習研究会は、岡山県総合福祉会館において「文章表現に近づく」と題して岡山大学教育学部助教授の田中智生先生にお願いをして、講演をしていただきました。
 当日は、講演会の後に予定しておりましたミニパネルディスカッションも先生のご協力により、思っていた以上のものになりました。
 以下は、当日のご講演の内容の要旨をweb公開用に先生にまとめていただいたものです。
 なお、このページに関する事柄についてのお問い合わせは岡山D&Lスクールまでお願いします。


2001.11.18.日

第3回学習障害児学習講座 講演要旨(80分の話を本人がまとめたもの)

文章表現に近づく


         岡山大学教育学部 田中 智生

はじめに

 私の専門は、国語教育学です。特に、学習障害児について研究しているわけではありません。今日お話しすることも、学習障害児だからということではなく、一般に文章表現に接するということの意味やその能力を育てることに関するもの です。

 

T.文章を理解するということ

 文章表現を理解するという過程を図式化すると、次のようになります。
          理解能力(言語経験・言語知識の学習)(1)
             ↓   ↓        ↑
意味A→記号(2)→認知?→理解→意味B  ↑
             ↑   ↑        ↑
        意欲・興味・関心(経験・環境)

       ※意味A:発信者の表現しようとした意味
      ※意味B:受信者の理解する意味

   意味Aと意味Bは同じ内容ではなく、その必要もありません。
 例えば、「父母と 同じ歩幅の 散歩かな」という短詩のばあい、作者が「父母といっしょに散歩をしていて、両親に歩幅をあわせてゆっくり歩いたことで、改めて両親が年老いたことを実感している想い」を詠んだとしても、読者は、「一人散歩していて、自分の歩幅の狭まったことに気づき、亡き父母の晩年を思い出し、自分も同じ年代になったのだという実感」を読みとっても構わないわけです。:cf読者反応理論
 しかし、意味Aと意味Bができるだけ近いものであることが期待される場合もあります。情報伝達を目的とする場合です。連絡の文章や新聞の報道記事などがそうです。
 もう少し、図について説明を加えますと、?の理解能力は、文字を中心とする記号を、単なるインクのシミとしてでなくことばを表す記号として認知し、その記号を解釈して意味のまとまりとして認識する過程に働きます。 記号を意味に解釈する段階には、表意の解釈と推意の解釈があります。この二つは、ほとんど同時に行われます。
 表意の解釈は、辞書の意味や文法法則によって特定される解釈です。これは、言語経験を豊富に持つことと、個々の言語知識を訓練によって獲得することと、それらで獲得したことを知識体系として学習することとによって、能 力を獲得します。国語の授業で訓練の部分の学習をする場合は、人間の知ることに対する基本欲求をバネにし、できるようになる達成感を感じることで螺旋的に継続させると効果的に行えます。(漢字の学習の例、省略)
 推意の解釈は、表意の解釈を基に、状況(文脈)に応じて、発信者の意図を推論して解釈するものです。言語経験の蓄積と経験知の帰納的推論によってなされます。文学作品の解釈で問題になるのは、多くがこの場合で、直接経験及び間接経験の量と帰納的推論能力がものをいうことになります。
 ?の記号には、音声記号と文字記号とがあります。ここでは、文章表現ということで文字記号が該当しますが、ことばの原初的姿は音声です。音声言語経験を豊かにすることは、言語獲得において順当な取り組みであり、文章表現に近づ く際にもこの点を考慮して、読み聞かせや音読を重視するのは必要なことだと言えます。

U.文章表現を読むという行為

 文章表現を読むという行為には、どのような種類が考えられるのか? 次に代表的なものをあげてみました。その他にもあれば、最後の矢印の所に付け加えてください。
  →調べたいことを資料によって明らかにするための読書
  →楽しみ(豊かさ/教養)のための読書
   →文学等虚構の世界に浸る
   →直接必要に迫られているわけではないが、関心のある分野について見聞を広める
  →伝達情報を受け取るための読書
  →読みの能力に培うための読書(学校の国語の授業)

  →

V.読むことの学習指導の内容

 文章表現を読むという行為をTやUのようなものであるとして、学校で行われる読むことの学習指導は、様々な行為達成のための能力をどのように育てているのかを概観しますと、一般に次の三つの指導が見いだせます。

    読解指導:いわゆる正確な理解の能力を養うことを目的とする(収斂の方向)
    鑑賞指導:豊かな読みの経験を促すことを目的とする(拡散の方向)cf交流
    読書指導:狭義の読書の知識と方法の習得と経験の保証を目的とする
          図書館指導・読書紹介・ブックトーク・読み聞かせなど
 これで、十分かというと、問題はあるかもしれませんが、この三つの指導があることも十分には認識されず、鑑賞の指導のはずなのに、一つの答えに集約したり、読解の指導なのに、どうしてその答えが導き出されるかを曖昧にしたりということが行われてしまっています。授業の場面設定を明確にし、様々な行為の目的を自覚して、それに必要な読みの能力を付けるようにしたいものです。来年度から導入の「総合的な学習の時間」は、目的の自覚という点で有効かもしれません。

 

W.読む方法の種類:

 Vでは、読む行為の目的に着目して見てきましたが、目的に応じた読み方ということで、読みの方法にも様々あることを確認したいと思います。次に示しましたものは、項目だけですが、読む行為の目的によって、使い分けるようにしたいものです。黙読が、単に声に出さないというだけでなく、朗読がちょっと上手な音読にとどまらない、目的達成のための方法として身につけさせたいと思います。
   初級読書・点検読書・分析読書・比較読書(M.J.アドラー他、『本を読む本』ブリタニカ)
   音読・微音読・唇読・黙読・朗読
   精読・略読
   参考として、挙げましたのは、中華人民共和国の語文教学大綱の一部で、日本の学習指導要領に相当するものです。活動能力の形で具体的に示されている点が注目されます。

参考:中国の読むことの教育の内容
 「九年義務教育全日制小学 語文教学大綱(試用)」(中華人民共和国国家教育委員会制定、1992)
     小学閲読教学は、語、文、段,篇の教学と朗読、黙読、復術(話し替え)、暗誦の訓練を通して、学習者に、常用語彙を学び、文の意味を理解することを学ばせ、教材文を段落に分け、段落大意を帰納し、教材文の主要内容と中心思想を概括することを学ばせ、作者が事物をどのように観察し、問題を思考し、思想を表現しているかを学ばせ、正確で流暢で感情のこもった教材文の朗読ができるようにし、比較的うまく黙読ができるようにし、指定した教材文の暗誦あるいは復術ができるようにし、少年児童に適合した出版物を読めるようにする。 (5頁)

※ 暗誦作品数は小学校6年間を通して、150編以上の優秀な詩文となっている。
※ 課外読書の量は、2年生で5万字以上、高学年で50万字以上、中学では、80万字以上。
 150頁の本1冊で、高学年以上の活字だとおよそ10万字。日本語だと、同じ内容でおよそ2倍の文字数か?

※ 黙読の速さについては、高学年で毎分300字以上、中学で毎分500字以上となっている。


 

終わりに.文章に近づく方法は様々にある

 はじめにもお話ししましたように、学習障害児に対してどれだけの意味のあることかわかりませんが、文章表現に接することが大事な意ことであるとすれば、その接近のしかたには、様々なものが考えられることは、わかっていただけたのではないでしょうか。理解能力を高めていくためにも、文章に触れる機会を多くすることが効果的で、いやがる活動に固執することなく、好んでする活動を取っ掛かりにして、経験を豊にさせてやることはできないものでしょうか。

                                       以上


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