ちょっと外れて大騒ぎ〜人の情けが身にしみる
1997年6月15日 曇り
それは突然であった。和歌山市内の通りをごく普通のペースでまっすぐに走っていたとき、下回りから「パカーン」という軽快な音が、犬キャラ号のキャビンから開け放ったサンルーフから抜けていった。特にショックがあったわけでもなく、空き缶でも踏んだのかと思ったが、前方の信号が赤に変わり、アクセルを戻した瞬間に、それは楽観的な憶測だったことに気が付く。
スロットルを少しでもラフに戻すと、カラカラとかカラーンという音が下回りからするのである。明らかにどこかが外れて、下回りを打っているようである。まず考えられるのはマフラーであるが、音の出ている場所が毎回微妙に変わるので特定は出来ない。
しばらく走ってみるが、症状は変わらないため、一旦停車させて下回りを覗いてみる。もちろん、そんなことをしたところで何も分からないのであるが、一応何かぶら下がっていたりしていないか確認したくなるのが人情というものだろう。
すると、発見したのである。ドライブシャフトのブーツが破れているのを・・・。改めて言うまでもないが、今回のトラブルとはまったく関係ない。仕方がないので、来た道を引き返してディーラーへ向かう。日曜日であるため、サービスは休みであるが、既に馴染みのセールス氏(パンダ・オーナー)が親切にもチェックしてくれた。
セールス氏もマフラーが怪しいと踏み、犬キャラ号をリフターで上げ、下回りのチェックをしてみる。あちこちを触ったり、ネジを増し締めしてみたりしてみるが、やはり症状には変化がなく、メカニックに見てもらうしかないようである。・・・とその時、同じ様に下回りから異音を発生させながら若い女性の運転する黒いパンダ(MTモデル)が入ってきた。その後に聞いた話では、このパンダはトランスミッションまでダメージの及んでいるという、相当な重傷だったようである。
結局、普通に走る分には問題ないだろうと言うことで、この日は代車の手配を頼んで退散した。
1997年6月28日 暴雨風雨
まったくもって、ようやく代車が手配できたというので、ディーラーへ犬キャラ号を預けに行く。この間にも症状は変わらず、特にバック時カタカタカタと断続的に音がするのが特に気になっていた。また、以前ステアリングのラックエンドの交換により多少は収まっていたステアリングのガタも、暑くなって来るにつれまた酷くなり、このまま我慢しながら乗るのも精神衛生上良くないと思い、思い切って対策してもらうことにした。メカニックには、ステアリング・ギアボックスの交換も辞さないと伝えた。思い返せばこの時は少々神経質になりすぎていたかもしれない。
異音対策はともかく、ステアリング関係は金額が大きくなりかねないので、見積もりを確認してから作業に入ってもらう。ここのところ立て続けに入院しているので、お金がないこともすっかりディーラーにも覚えられている。少々悲しいが、おかげで良いこともある。
1997年6月30日
仕事中、携帯が鳴る。ディーラーからの見積もりの連絡である。異音はやはりマフラーの一部が外れ、下回りを打っていた為とのこと。これはちょっとした調整で済むため、ほとんどお金は掛からないらしい。破れたドライブシャフトブーツの交換(こちらの方が高い)と合わせて2万円程度という。
そして問題のステアリングは、ステアリングのラックガイドが原因ということで、これを交換。工賃込みで3〜4万円程度。全部で6万5千〜7万円程度になるという。万が一ミッション本体のトラブルだったらこの程度では済まないので、一安心と言うところである。
ところで、今回の代車は初代フォード・フェスティバだったのだが、以前私が乗っていたスポーツモデルGT−Xとは対照的に、エンジンも足周りも大人しく装備も簡素なタイプだった。しかし、性能は高いが重々しいフィールと限界域のピーキーな挙動に悩まされたGT−Xと比較して、細いタイヤ(ミシュランMXT)とソフトなサスペンションのおかげで、軽快で自然で快適な、非常に好感の持てるクルマであった。犬キャラ号ももうワンランク細いタイヤであれば、もっと乗り味が良くなると思うのだが・・・。ともかく、「タイヤを太くして良いことは何もない」と改めて思った次第である。
1997年7月10日 雨
ビアガーデンでビールを飲んでいる最中、携帯が鳴る。修理が終わったとの連絡である。マフラーは外れていた射熱板を付け直し、ドライブシャフトブーツも問題なく交換終了とのこと。
しかし、ステアリングはラックガイドを交換しても症状に変化はなかったというではないか。こうなると、あとはステアリング・ギアボックスを交換するしかなく、また何万円も掛かってしまうのである。なによりこれ以上、犬キャラ号のいない生活はとても耐えられないため、とりあえずはそのまま退院させることにし、また何かの機会に交換するか考えるために、簡単に見積もりだけは作ってもらうことにする。この後のビールの味は、ちょっと不味くなったような気がする。
1997年7月11日 曇り
ディーラーへ犬キャラ号を引き取りに行く。メカニック氏によれば、ステアリングのガタはある程度仕方なく、ギアボックス本体を交換(6〜7万円程度?)しても、時間が経てば元に戻るので交換はあまり勧めない、もちろん、症状が進んで機能に支障が出るようなことはない、とのこと。もちろん、そんなことは分かっているが、犬キャラ号のステアリングのクリック感は通常の「ガタ」ではないだろう?という疑問は残る。
そこまで話したところで、とりあえず(例によってピカピカな)犬キャラ号を見に行くと、ドライバーズシートに封筒が乗っている。メカニック氏が何も言わないので、とりあえず封筒取り出し、おもむろに開けてみる。入っていたのはもちろん請求書であったが、何かおかしい。金額が異常に低いのである。見積もりでは6万円はするはずだったのに、請求額は29,925円なのである。詳細は以下の通り。
作業内容
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数量
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単価
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部品代
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技術料
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マフラー射熱板調整
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3,000
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ドライブシャフトオイル漏れ修理
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18,000
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ドライブシャフトブーツ・インナー
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2
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1,250
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2,500
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ブーツバンド
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4
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330
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1,320
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トランスミッションオイル
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2.3L
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1,600
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3,680
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小 計
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7,500
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21,000
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合計(消費税)
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¥29,925(¥1,425)
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「直ってもいないのに、請求できませんから」・・・何という良心的な店であろうか。こんなディーラーがあるなんて、外車ディーラーに対する認識を改めなくてはいけないと思う。ここで、「いえ、悪いですから払いますよ」と言えない自分が少々悲しかったが、仕方がない。何せ貧乏なのだから。「本当は部品代だけでもいただきたいのですが」・・・と辛そうに言うメカニック氏の一言に少しだけ胸が痛むが、3万円以上浮いた嬉しさの方が大きい。まさに、「貧すれば鈍す」。
さて、犬キャラ号であるが、そうはいうものの心なしかステアリングの症状が改善されているような気がする(多分気のせいなのであろうが)。そして、これはハッキリ体感できるのだが、ステアリング周りやFサスの剛性感が飛躍的に向上している。この間からサスペンション周りを何度も組み直したり、増し締めをした効果だろうか、今だ十分な剛性を保つボディも合わせ、ドイツ車のような剛性感。正直嬉しい(私はボロい事を喜ぶタイプのパンダ乗りではない)。そのかわり、新しい部品がなじんでいないのか、ステアリングはフリクションが強くなり、「まるでパワステのよう」と形容される軽さが無くなってはいるが、これは時間が解決してくれるはずである。
困ったのはステアリングを組み直すときに調整を怠ったのか、ウインカーが少しおかしいこと。左折時は戻らず、逆に少しでもハンドルを右に回していると、キャンセラーと干渉して右にウインカーを出せなくなっている。ようするに、全体が左にずれているのである。ま、タダだから文句は言えないのだが・・・。