エクステリアデザイン〜ジウジアーロの最高傑作



/////カー・デザインの見方を変えた

ここで告白しますが、私はパンダのデザイン、実際に買うまではそんなに好きではありませんでした。細かいデザイン手法の問題ではなく、実際以上に長く見えるノーズやそれを助長する寝気味のAピラー、前後のオーバーハングの長さ等の、実際よりもパッケージングが悪そうなプロポーションが、元々ルノー・トゥインゴのような徹底的に室内を広く取ろうとする意図が見えるモノフォルム好みの私には気に入らなかったんですね。もちろんこれは完全な私の誤解で、実際は素晴らしくハードなパッケージングなんですが。

ところが、パンダを毎日眺めているうちに、「これは凄いデザインだ。本物のデザイナーだけが描きうる完璧なものだ。」となってきたんですね。そして、 他のクルマを見る目も変わってきました。それまでいいと思っていた殆どのク ルマがダメに見え、逆にそれまで意識にも上らなかったクルマを評価するよう になったんです。

/////逆転の発想

パンダのデザインの凄さ、というのはパンダの骨格自体が持っている自動車をデザインするにあたって不利になる条件をことごとく逆に利用して素晴らしく完璧なスタイリングを作り上げたことでしょう。ここで大事なのは、例えばミニのように骨格をそのまま形にした結果「完璧なスタイリング」を得たのではなく、あくまで「デザイン」によって、この完璧さを得ていることです。 パンダの骨格が持っている「デザイン上不利な条件」。それは極限までにケチられたコストと豊かな室内空間の狭間で生まれた、多少奇形的なプロポーションです(ここから、少しドキュメンタリー風(^^;)。

前任者126と同等の低コストを要求されたと言われる「ティーポ・ゼロ(パンダの開発コード)」はそのため足回りに凝ることができず、リアサスにリーフリジットを採用したといいます。結果ホイールベースが短くならざるをえなり、制限された室内長に対してジウジアーロ氏は前席を徹底的に前に詰めたうえで(ダッシュボードがなくポケットになっているのもこの為)、乗員をアップライトに座らせるために車高の上げ、さらにボディサイドまったく絞り込まない真っ四角なキャビンを「ゼロ」に与えました。そして「ゼロ」は背が高く腰高でホイールベースが短いという非常に安定感に欠けるプロポーションになったのです。普通のデザイナーならここで「どうやってごまかすか」ということに心血を注ぐわけですが、ジウジアーロ氏はここで素晴らしい発想の転換を行ないます。

それは「車高が高くホイールベースが短く角張っていて、さらにまったくコストを余分にかけていないのに世界中の人がカッコいいと思っているクルマが存在する」ことに気付き、そのクルマをモチーフにしたことです。そのクルマとはそう、「ジープをはじめとするクロスカントリー・ヴィークル(以下CCV)」です。ジウジアーロ氏はインタビューでただ「ジープ」といっていたようですが、私の見たところメルセデスのゲレンデヴァーゲン辺りの方が似ていると思うので、氏はCCVの総称としてジープの名を挙げたのではないでしょうか(まるで日本人のように(^^;)。

/////質実剛健さと軽快感の両立

さてさて、CCVのデザイン上の特徴で「ゼロ」が取り入れたのは水平基調のボンネット、上下に薄い平面ガラス、高いウエストラインによる厚いボディサイド、極端にボディと段差を付けたサイドウィンドウ、ホイールアーチとタイヤの隙間の大きさ(おかげでホイールストロークがたっぷり取れる。細かいところではボディとルーフの間のプレスライン(ドアの上部のラインから繋げている。CCVの多くがルーフを「載せたような」デザインになっているのを引用したようです。ワゴンRも同様の処理がされていますね)、角張ったフェンダーなどがあります。そうそう、色々なところの「隙間」が大きいところもそうですね(^^;) これらの多くはコスト低減にも、おおいに役立ったはずです。

こうして、世にも珍しい形の小型乗用車が出来たのです。が、もちろん氏はただジープのような小型車を作っただけでではありません。微妙に後ろ上りになっているサイドのプレスライン(サイドガラスの下端のラインとのバランスは絶妙)や小振りなライト類、樹脂部品を多用したボディの仕上げなどCCVには無い軽快感を演出しているのです。細かいディテール処理やバランスの巧みさは毎日見ていてもため息が出るほど繊細で美しいです。

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パンダはどこから見てもとてもいいデザインなんですが、私は特に斜め後ろか ら眺めるのが好きです。不思議に躍動感があって、さらになんか哀愁が漂って いるのがいいですね(^^;