第1話 最近気になる国産ファミリーカメラ、そして「秋月」
2002/11/30

 日本で本格的にカメラが普及しだしたのが、いつの頃かは正確には知らないけれど、オリンパスPENがデビューした1960年頃から、一家に一台中流の家庭に置かれるようになったのではないかな。それから、1980年代中盤くらい、ビデオカメラが普及し出す前が、銀塩のファミリーカメラ黄金期だったと思う。

 最近、そういう古き佳き国産ファミリーカメラがとても気になる。カメラの素人が使うこれらのカメラの歴史は、「如何にして失敗写真を減らすか」ということに各メーカーが知恵を絞った、試行錯誤の歴史であり、それらを辿って行くだけでも非常に面白い。

 露出計の搭載、自動露出(EE機構)の登場、測光素子の進化、フラッシュ搭載、距離計・ゾーンフォーカスからオートフォーカス搭載へ、、、。これらがめまぐるしく変化していったのが、この頃のファミリーカメラの世界だった。

 原始的だが低価格のEEカメラとして初代キャノネットがデビューし一世を風靡したのが1961年、高性能な測光素子cdsを使いICで電子シャッターをコントロールしたハイテクカメラ、ヤシカ・エレクトロ35のデビューはその僅か5年後の1966年、そのほぼ半分の重量に収まってしまった超小型AEカメラ・初代コニカC35は1968年に登場、その後一時的に停滞するが1975年にはフラッシュを内蔵したコニカC35EF(ピッカリコニカ)がデビュー、その2年後の1977年には世界初のオートフォーカス・カメラ、コニカC35AF(ジャスピンコニカ)が登場、、、主な出来事だけでもこれだけある。

 それ以外にも各メーカーが、それぞれに工夫を凝らした(時に暴走気味なほど)カメラを世に問うた時期である(興味が出てきた方は、"Range Fineder"というHPへどうぞ。超有名ですが)。

 この頃のカメラは、ファミリー向けと言っても高品質なレンズを積んでいたりするので、根強いファンがいたりする。

 しかし、ファミリーカメラは、ある時期からカメラとしての機能レベルをどんどん落としてしまった。フラッシュが付いたことで、露出の範囲を著しく落とし(初代ピッカリコニカはシャッター速度が2速しかない。最終モデルに至っては単速)、オートフォーカスが付いた弊害で、レンズは暗いものしか付かなくなり、結局消費者が望んでいないから、という理由でコストダウンがどんどん進んでいった(暗くてもいいレンズはあるので、一概に暗いとダメだとは言えないが)。しかし、これが後に「写るんです」ブーム、そしてデジカメの台頭を許し、ほとんど銀塩ファミリーカメラが絶滅寸前になってしまった原因なのではないか。

 そんなことを考えつつネットを巡っていたら、面白いカメラが出てました(長い前フリ!)。ライカLマウントボディの「安原一式」で有名な安原製作所から、「秋月」というカメラが発表されてました(詳しくはこちら)。これは、まさにファミリーカメラ黄金時代のスタイルを現代に蘇らせた、という感じ。

 簡単に説明すれば、レンズ固定、電子式レンズシャッター、レンジファインダー搭載マニュアルフォーカス、絞り優先AE、フラッシュ搭載のコンパクトカメラ。基本的には、キャノネットやヤシカ・エレクトロやミノルタ・ハイマチックなどを思い起こさせるコンパクトカメラ。オール金属製で、質感に関してはそれなりにこだわったよう。デザインはオーソドックスですが、適度に柔らかい雰囲気で、一式のような無骨さはなくなっている。小さなフラッシュがキュートで、女性にも受けたい、という狙いは、ある程度成功している。何というか、撮影者と被写体の間に、いい関係が生まれそうなデザイン、という気がする。女性同士の旅行で、これで写真を撮り合っている、なんて風景はとても良さそうだ。

 個人的にはとてもいいと思う。電子制御するべきところと、マニュアル操作を残したところのバランスが非常にユーザーフレンドリー(フラッシュ搭載も正解でしょう)。操作系も昔のカメラのそれを見事に受け継いでいる。僕はコニカ・ヘキサーを持っているけど、ヘキサーはこうあるべきだった、と強く思う。実のところ、「一式」と比べても、カメラ好きが強く惹かれる部分は少なくなっているけれど、「撮影者」のことをよく考えてある。

 「秋月」は、今となってはあまりに貴重な、とても素直なカメラだね。あれだけ「カメラヲタク」にとやかく言われながら、こういうカメラを出してきたところは素晴らしい。色々と使ってみたけど、素直なカメラが一番だと思う。

 個人的には、値段の問題で購入するわけにはいかないけど、適度に売れるといいな、と思う。

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